苦笑いする雪乃さんの話を聞いて、その場面が容易に想像できる。兄は見た目のまんま涙脆い。出産時にはそれは大泣きしたんだろうな。

「仕方がないだろう? あんな神秘的な場面を目の当たりにしたら、誰だって涙が止まらなくなる」

 涙を拭い、兄は雪乃さんに向かって大きく頭を下げた。

「雪乃、俺たちの子供を生んでくれて本当にありがとう。そしてお疲れ様」

「栄臣……」

 兄の言葉に、雪乃さんの目はみるみるうちに赤く染まっていき、涙が溢れた。

「私のほうこそだよ。……これまでずっと支えてくれてありがとう。今日からがまた大変だと思うけど、協力して大切に育てていこうね」

「あぁ、そうだな」

 雪乃さんに涙を見て、兄もまた泣き出す。その姿に私も祖母ももらい泣きしてしまった。


 この日の夜、面会時間ギリギリに大翔が病院に来てくれた。雪乃さんは出産の疲れがあって今はぐっすりと眠っている。

 兄はギリギリまで赤ちゃんを眺めていたいと渋ったものの、明日は仕事。支障をきたさないように祖母が引きずって帰った。

 私も帰ろうとしたところ、兄が赤ちゃんが生まれたことを大翔にメッセージで報告していたようで、急いで駆けつけてくれたのだ。

「可愛いな」

「うん」

 ガラス越しに見える兄たちの子供に、私も大翔は視線が釘付けになる。

「これだけ可愛いんだ、大翔騒がしかっただろ?」

「もちろん騒がしかったよ。雪乃さんが言うには分娩室に入ってからずっと泣き続けていたらしいよ」

「大翔らしいな」