「さて、そろそろ帰ろうか」

「そうだな、店の開店に間に合わなくなる」

 大翔の飛行機を見送って帰ろうと展望デッキを出たところで、急に雪乃さんが足を止めた。

「どうした、雪乃」

 すぐに気づいた兄が駆け寄ると、雪乃さんはお腹を押さえてうずくまる。

「痛っ……どうしよう、陣痛が始まっちゃったみたい」

「なんだって!?」

 廊下に響く大きな声に、行き交う人が足を止めた。

「大変だ……! ど、どうしたらいい!?」

 大パニックになる兄ほどではないが、私もどうしたらいいのかわからなくて立ち尽くしてしまう。そんな中、祖母だけが冷静だった。

「大変。桜花、時計をしていたね。雪乃さんの痛みが収まってから次の痛みがくるまでの時間を計ってちょうだい」

「う、うん、わかった」

 祖母に言われた通り、見やすいようにベルトを外して腕時計を手に持つ。

「落ち着いたら安静にできる場所に移動するよ」

「は……い」

 祖母は雪乃さんの背中を摩りながら、狼狽える兄を叱咤した。

「栄臣、父親になるんだからしっかりしなさい!」

「あ、あぁ! 悪い」

 祖母に言われて落ち着いたのか、兄もしっかりと雪乃さんを支えた。

 陣痛の間隔はまだ長いものの、今、自宅ではなくて出かけ先ということもあり、すぐ病院に来ていいと言ってくれた。

 タクシーを呼んで、私と祖母は店があるため、雪乃さんを兄に任せた。

「栄臣、ちゃんと雪乃さんのサポートをするんだよ」

「わかった。店は任せたぞ」