「なっ……! なに言ってっ……!」

 声を荒げてしまうと大翔は声を上げて笑いだした。

「笑わないでよ」

「ごめん、桜花があまりにからかいがいがあって……」

「やっぱりからかっていたんだ!」

 反撃とばかりに頭を叩いても、彼の笑いは増すばかり。

 大翔の笑顔を見ていると、自然と怒りも収まって頬が緩んでいく。

 大翔が私の幸せを願ってくれているように、私も大翔を幸せにしたい。そのためにも早く記憶を取り戻して安心させたいし、飛行機へのトラウマを克服して大翔が操縦する飛行機に乗りたい。

「さて、と。そろそろ帰るか」

「じゃあ降ろして」

 さっきからずっと抱き上げられた状態で、もしこの姿を誰かに見られたらさすがに恥ずかしい。

 しかし大翔は降ろしてくれないまま歩き出した。

「やだ」

「やだって、そんな子供みたいなこと言わないでよ」

「いいだろ? このままでも」

「よくないよ」

 なんて言い合いをしている間も大翔は歩を進めていくものだから案の定、通行人に見られてしまった。

「本当に恥ずかしかった」

 就寝前に思い出しても顔から火が出そうになる。だけど、本当に大翔の言葉が嬉しかったな。 大翔がそばにいてくれたら、絶対に記憶を取り戻して飛行機にも乗れる気がするよ。

「少しずつでいいから、思い出の場所を巡って記憶の欠片を集めていこう」

 それがきっと大翔との幸せに繋がっていると思うから。

 この日は幸せな気持ちで眠ったからだろうか、いつもの男の子の夢を見ることはなく、大翔との幸せな未来の夢を見たのだった。