「でも記憶が戻らない可能性だってあるんだよ?」

「いや、必ず戻ると信じている」

 力強い声で言うと、大翔は私の頬を優しく撫でた。

「戻らなくても知らないよ……?」

「その時はその時だ。俺はこうして桜花と一緒にいられるだけで幸せだから」

「本気で言ってる?」

「もちろんだ」

 次の瞬間、大翔は私の膝に腕を回して抱き上げた。

「きゃっ!?」

 突然身体が宙に浮いて悲鳴に似た悲鳴を上げながら彼の首にしがみついた。

「びっくりしたじゃない」

 抗議をしているというのに、大翔は嬉しそうに笑う。

「本当に可愛いな、桜花は」

「……ねぇ、可愛いって言えばいいと思っていない?」

「いや、本音だからな? 俺にとって桜花は可愛くてたまらない存在なんだから」

 またいつものように私が恥ずかしくなることを言うんだから。だけど、彼に愛されていると実感できて、胸がいっぱいになる。

「私もこうして大翔と一緒にいられるだけで幸せなのに」

 あまりに嬉しくて素直な思いを口にすると、大翔は目を細めた。

「ありがとう。だけど桜花は今、苦しんでいるだろ? どんな小さな苦しみやつらさだって桜花にはさせたくないんだ。俺のワガママを許してくれ」

「ワガママだなんて……」

 違うよ、大翔。ワガママじゃなくて優しさだ。溢れそうな涙を必死にこらえていたら彼は顔をクシャッとさせた。

「それとも桜花が我慢できない?」