すぐさま聞き返してきたものだから振り返ると、思った以上に彼の顔が至近距離にあって微動だにできなくなる。

 少しでも動いたら唇が触れてしまいそうな距離に、胸の高鳴りが増す。すると大翔が目を閉じたものだからキスの合図だと思って私も瞼を閉じた。しかし彼は私から離れていった。

「……え?」

 てっきりキスされると思っていたから拍子抜けしてしまう。そんな私を見て彼は必死に笑いをこらえていた。

「ちょっと大翔?」

「悪い、キス待ちの桜花の顔が可愛くてさ」

 なんて言うけれど、笑いをこらえている時点で絶対に可愛いと思ったんじゃなくて、おもしろいと思ったんでしょ? またからかわれたと思うと悔しくなる。しまいには声を上げて笑いだした大翔が恨めしい。

「ねぇ、いい加減笑うのやめてくれない?」

「ごめんごめん」

 謝っているのに誠意が感じられなくて、怒りが募る。

「昨日は今度イチャイチャしようって言ったけどさ。……それは桜花の記憶が戻ってからにしよう」

 そう言うと大翔は私の腰に腕を回して自分のほうに引き寄せた。

「えっ? 大翔、言ってることとやってることが違くない?」

 さっきはイチャイチャするのは私の記憶が戻ってからって言ったよね?

「いや、ハグとキスはイチャイチャのうちに入らないだろ」

「じゃあなにが入るの?」

「それを今俺が言ったら桜花は恥ずかしがると思うんだけど」