「大翔から桜花ちゃんが昔の記憶を取り戻そうとしていると聞いてね。これを返そうと思って持ってきたんだ」

 返そうってことは、元々は私のものだったってこと?
 でも身に覚えがなくて、受け取るに取れなくなる。

「どうして私がこれを持っているのか、それらについては大翔から言わないほうがいいと言い聞かされてきたから伝えられずで悪いね。……だけど、桜花ちゃんが記憶を取り戻す上で、必要な物だと思ったんだ」

 そっと受け取り、改めてハンカチを見てもなんの記憶も蘇ってこない。

「いつかこのハンカチがどんな物なのか、桜花ちゃんと話ができることを祈っているよ」

「ありがとうございます」

 最後に上杉のおじさまは、「今度ゆっくり家に遊びにおいで」と言って帰っていった。外まで見送りに出た兄は戻ってくると私の横に立ち、ハンカチを見つめる。

「やっと桜花の元に戻ってきたんだな、それ」

「え、お兄ちゃんもこのハンカチのことを知っているの!?」

 びっくりして聞き返すと、兄は「しまった」と呟いて口に手を当てた。

「さっきのことは忘れてくれ」

「忘れられるわけないじゃない! お兄ちゃんも私はハンカチを貸した場面にいたってこと?」