「でも、英語と中国語はマストだろ? 他にイタリア語やフランス語、韓国語など話せるなら頼りになるじゃないか」

「そうだけど、難しいと思うよ」

 来てくれるまで待つしかないだろう。それでもいい出会いがあればと思っている。

 閉店作業を進めながら、兄は「できれば雪乃が出産する前に来てくれたらいいんだが」とブツブツ呟く。

「暖簾下げてくるね」

 店内は兄に任せて暖簾を下げてこようと歩を進めているとドアが開いた。

「遅くにすまないね、少しお邪魔してもいいかな?」

 そう言って入ってきたのは、上杉のおじさまだった。

「お久しぶりですね、どうぞお入りください」

 会うのはお見合いの日以降だ。招き入れてまずは暖簾を下ろし、すぐにお茶の準備をしようとしたが「すぐお暇するから気にしないでくれ」と、止められてしまった。

「今日はこれを桜花ちゃんに渡したくて来たんだ」

「私にですか?」

 そう言って上杉のおじさまが私に差し出したのは、小花の柄が描かれたハンカチだった。

「これは……?」

 ハンカチと上杉のおじさまを交互に見てしまう。