ちゃんと説明してくれない兄にモヤモヤする。もちろん私のためを思って相手を教えないとわかってはいるけれど、早く思い出したい気持ちがどうしても勝ってしまう。

「ねぇ、名前だけでも教えてもらうことはダメなのかな? そうしたら私、思い出せるかもしれないじゃない」

 焦る気持ちから提案をしたものの、三人は困り始めた。

「医者にも焦らないほうがいいって言われたんだろ? 変に記憶が混濁する可能性だってある」

「そうだよ、桜花ちゃん。ゆっくりでいいと思う。これからも私たち、協力するから」

「……うん、そうだよね」

 頭では理解するも、どうしても心は拒否してしまう。

 こうやってみんなにも、大翔にだってあんなに心配させてしまった。だから早く思い出して安心させたい気持ちが自然と大きくなる。

 ベッドに入っても、私は何度もアルバムの写真を眺めていた。

 両親の記憶は優しい人だったとぼんやりとしかなかった。父は一見厳しそうだが、笑った顔は柔らかくて写真からも、私と兄を愛してくれていたのが伝わってくる。

 母は綺麗な人で、きっとすごくモテていてんだと思うほど。ふたりはどうやって出会って結婚したんだろう。

 母は呉服屋に嫁ぐことに対して、どう思ったのだろう。プレッシャーとかなかった?

「そういう話も聞いてみたかったな」

 感情が昂り、目頭が熱くなる。