「桜花が飛行機に乗りたい、一緒にロンドンに行きたいって言ってくれたのが嬉しくてさ」

 まさか涙を流すほど喜んでもらえるとは思わず、胸が苦しくなる。

「わかった、俺も桜花が記憶を取り戻せるように協力するよ。だけど、無理だけは市内でくれ。……きっと忘れられてしまった人だって、桜花につらい思いまでして思い出してほしくないと思っているはずだから」

 そう話す大翔は苦しそうで、まるで本当に私が忘れてしまっている人がそう思っているような気がして、泣きそうになってしまった。

「うん、ありがとう」

 大翔のためにも、早く記憶を取り戻したい。そして飛行機に乗りたいと強く願う。

「病院に行って疲れただろ? 家まで送る」

 そう言って大翔は私の手を握った。

 想いが通じて恋人になっても、会うのは一週間ぶりだからか手を繋ぐだけで緊張してしまう。でもそれ以上に彼が優しくて、触れてくれるのが嬉しい。

「じゃあお願いします」

 肩を並べて歩く彼にいえば、クスリと笑った。

「どうして敬語なんだ?」

「えー、なんでだろう。なんか敬語で言っちゃった」

「なんだ、それ」