「医者が言っていたんだが、自然に思い出すのが桜花の身体に一番負担が少ないって」

「私たちが伝えることは簡単だけど、それによって忘れていた罪悪感で桜花が苦しむのが嫌なんだよ」

「お兄ちゃん……おばあちゃん……」

 ふたりが私を心配してそう言ってくれているのは痛いほどよくわかる。でも祖母の言う通り、私がずっと忘れている人に申し訳ないよ。

 そんな私の気持ちを察してくれたのか、雪乃さんが口を開いた。

「桜花ちゃんさえよければ、病院に行ってみない?」

「えっ?」

「今の桜花ちゃんの気持ちを先生に話してみるのもいいと思う。記憶を取り戻す方法を一緒に考えてくれるかもしれないし、夢の話や頭痛のことも相談したほうがいいんじゃないかな? どう思う? 栄臣」

 雪乃さんに話を振られた兄は、顎に手を当てて考え込む。

「うーん……たしかにそうかもしれないな。医者にも記憶を取り戻す兆しが見えたら、一度受診してほしいって言っていたような……。なぁ、ばあちゃん」

「そうだったね。……うん、一度受診したほうがいいだろう。もちろん桜花がよければだが」

「行くよ、絶対に行く」