「ありがとう、桜花。……名残惜しいけど、そろそろ帰るか。でないと、栄臣に怒られそうだ」

 そう言って大翔はポケットからスマホを手に取ると、メッセージ画面を見せてくれた。兄から怒涛のメッセージラッシュで、【どこにいる?】【話をするだけなのに、どうしてこんなに遅いんだ】【返事をしろ】【桜花にやましいことをしたら許さない】【場所を言え。迎えに行く】など、多くのメッセージが届いていて苦笑いしてしまう。

「お兄ちゃんがごめんね」

「いや、それだけ栄臣は桜花のことが大切なんだよ。だからちゃんと桜花と交際することになったって報告させてくれ」

 先に立ち上がった彼は、大きな手を私に差し出した。

「帰ろう」

「……うん!」

 彼に手を引いてもらって立ち上がった後も、私たちは家に着くまでずっと手を繋いでいた。


「夢じゃないよね」

 ベッドで横になって天井を眺めながら、大翔のことを考えてしまう。

 キスを交わしたというのに、まだ想いが通じたことが夢のよう。でも私を送ってくれた時、家族全員の前で私と結婚を前提に交際をさせてくださいと改めて挨拶をしてくれて、胸の奥が熱くなった。

 私との未来を真剣に考えるほど想いを寄せてくれていたのに、どうしても大翔の気持ちが信じられずにいた自分が申し訳なくなる。

「これからは大翔のことをちゃんと信じよう」 そしてもっと彼のことを知って好きになりたい。私のことも知ってもらって、家族に挨拶してくれたように、いつか大翔と一緒になれたらいいな。

 この日の夜は、さぞ幸せな夢を見られるだろうと思っていたが、それは違った。

 顔がぼやけて誰だかわからない男の子が、必死になにかを訴えてくる夢を見た。何度問いかけても聞きとることができなくて、夢の中なのにもどかしい思いをして……。

 そして夢を見るようになってから急に激しい頭痛に襲われる。それが数日おきに続くことになった。