「それは困るな。俺は今後も会いたいし、会ってキミを口説くチャンスをもらいたいから」

ナチュラルにドキッとするようなことを言われ、不覚にも胸がときめいてしまった。

「さっきさ、心から愛する人と結婚してくれって言っただろ? その相手は今、俺の目の前で頬を赤く染めている子なんだ。その場合はどうしたらいい?」

「な……にを言って……」

 冗談だよね? だって会ったその日に好きになるなんてあり得る?

「言っておくけど、冗談でもからかっているわけでもない。……だからさ、キミに好きになってもらえるように努力させてくれないか? そのチャンスをくれたら全力で好きにさせてみせるから」

 真剣な面持ちで言う彼は、嘘を言っているようには見えない。でも、こんな話を安易に信じるわけにはいかないよ。

 しかしなんて答えたらいいのかわからなくて言葉が出てこない私に対し、彼は小さく息を吐き、意地悪な顔で続けた。

「そういえばじいさん、俺とキミの結婚を心から楽しみにしていたな。相当じいさんはキミのことがお気に入りのようで、家族になる日を心待ちにしていたぞ?」

「そんなことを言われても……」

「こんなこと言いたくないが、お見合いしてすぐ断られたら、じいさんはショックでもう松雪屋で着物を買えなくなるかもしれない」
 まさかの脅し文句にギョッとなる。

「ズルいですよ、それ」

 ジロリと睨んで言えば、彼は満面の笑みを浮かべた。