「悪いな、栄臣」

「あぁ、本当に。でも悪いと思っているなら早く桜花の誤解を解いてやってくれ。なんか今日の桜花、ずっと張り切りすぎて逆に心配になった」

「わかった」

 栄臣に肩を叩かれてエールを送ってもらい、桜花がいるというキッチンへと向かう。廊下を進んでいくと桜花と雪乃さんの笑い声が聞こえてくる。

 桜花は俺を見ても逃げないだろうか。話を聞いてくれるか、心配や不安ばかりが募っていく。

 ゆっくりとドアを開けてキッチンを覗くと真っ先に雪乃さんと目が合った。栄臣から事情を聞いていたのか、桜花に声をかける。

「桜花ちゃん、ちゃんと話をしてきて」

「どういう意味ですか?」

 小首を傾げる桜花に、雪乃さんは俺を指差す。すると振り返ってこちらを見た彼女の目は丸くなる。

「え? どうして大翔がここに……?」

 呆然となる桜花に一歩、また一歩と近づく。そして目の前で足を止め、俺を見上げた桜花にそっと告げた。

「桜花、お願いだから俺の話を聞いてほしい」と――。