「上杉さんにどんな事情があって私との結婚を望まれているのかわかりませんが、どうか結婚は心から愛した人となさってください。後悔してからでは遅いですよ?」

 身近に幸せな結婚をした兄夫婦がいるから、心から思う。すごく好きな人と結婚しなければ幸せになれないと。

 勢いでして後悔してほしくないし、私自身も変なことに巻き込まれたくない。上杉のおじさまはかなりの富を築いてきただろうし、もしかしたら早く結婚しなければ遺産を相続させないと言われたとか?
 そんな争いに利用されるなどごめんだ。

 しかし、ここまで言えばさすがに言い返してこられないのでは?

 さっきまですぐに言い返してきた彼からの返事がない。様子を窺うと目が合った彼は愛おしそうに私を見つめた。

「俺の心配をしてくれるなんて、キミは優しい人だな」

「……はい?」

 まったくもって予想していない言葉が返ってきて、つい大きな声が出てしまった。

「あの、私の話を聞いていましたか?」

「なぁ、同い年なのにいつまで敬語なんだ?」

 頬杖をついて私の話を完全にスルーする彼に怒りが増していく。

「なぜなら、今後はいっさいあなたと会う予定がないからですよ」

 苛立ちを隠すことなくぶつけたら、彼は「ふっ」と笑った。