それらを頭に叩き込んで機長と確認事項の認識の照らし合わせを行なうのだ。

 朝食後は最後にもう一度身だしなみを鏡で確認して家を出た。

 通勤はいつもベリが丘駅から空港まで一本でいけるため、電車を利用している。多くの乗客とともに電車に揺られて出勤後は、ロッカーで制服に着替える。

いつも制服に袖を通すと、これから多くの乗客の命を預かって空に向かうのだと身が引き締まる。

 ロッカーの鏡を見ながらネクタイを締めていると、今日バディを組む機長の会沢(あいざわ)さんが出勤してきた。

「おはようございます」

「おはよう、上杉。今日も相変わらず男前だな」

 会沢さんは四十二歳になるベテランパイロットだ。バディを組むことが多く、一番お世話になっている先輩でもある。

 普段からジムに通って身体を鍛えているようで、がっちりとした体型をしている。冗談を言うのが好きな陽気な人で、なにかと相談にも乗ってくれる優しい人でもあった。

 操縦技術も素晴らしく、彼から学ぶことがたくさんあって日々勉強させてもらっている。

「今日は沖縄便か。折り返し便までたしか一時間半あったよな。久しぶりにソーキそばが食いたいな。上杉、一緒に行くぞ」

 俺の都合など聞かずに一方的に決められて苦笑いしてしまう。でもこういうところも憎めない。