「大翔、こっちだ」

 奥の着付け室へ案内しようとする兄を急いで止めに入った。

「待って、お兄ちゃん! 私、これから発注したりして忙しいから出かけられないよ」

 そもそも大場さんとの一件があってすぐに、大翔とふたりで出かけるなんて無理だ。なにを話したらいいのかわからない。

 だから必死に説明したものの、兄はあっけらかんと言った。

「そんなの俺が打ち合わせの後にやっておくよ。だから桜花は気にせず大翔とのデートを楽しんでこい」

 兄は良かれと思って言ってくれたのだろうけれど、私にとっては全然良くない。どうにか兄を説得できないかと必死に断る理由を考える。

「でも、ほら! 早く帰って雪乃さんのお手伝いをしたほうがいいでしょ?」

「ばあちゃんがいるから平気だ。それに俺も終わり次第急いで帰るから桜花は気にしなくていい」

「だけど……っ」

 どうしよう、断る理由がこれ以上浮かばない。

「桜花は俺と出かけたくないのか?」

 なにかを感じ取ったのか、大翔が私の様子を窺いながら聞いてきた。咄嗟に彼を見ると、悲しげに瞳を揺らすものだから胸が痛む。

 でもどう答えたらいいのかわからずにいると、背後から兄が私の両肩に手を置いて話し出した。