「ため息の原因はやっぱり大翔との喧嘩のせいか?」

「えっ?」

 目を瞬かせる私を見て、兄はますます顔を緩ませた。

「そうだよな、最初は喧嘩したらどうやって仲直りすればいいのかわからないよな」

 急に大きな声で言ったかと思えば、得意げな顔になって私の肩をポンと叩いた。

「可愛い妹のために兄は一肌脱いでやったぞ。感謝しろよ」

「どういうこと?」

 私を置き去りにして話を進める兄は再び肩を叩く。

「セッティングしてやったから、あとはお互い言いたいことを言い合って仲直りしたらいい」

 ちょっと待って、それってまさか……!

 嫌な予感がした時、暖簾を下げたはずなのに入口のドアが開いた。すると兄は私の肩から離した手を高く挙げた。

「待ってたぞ、大翔。時間がない、さっそくやるぞ」

「大翔……?」

 私服の大翔が店内に入ってきたと思ったら、兄は手招きをして彼を呼ぶ。

「あぁ、頼む」

 話が見えない私に大翔はいたずらが成功した少年のように笑みを零した。

「びっくりしたか? でも着物デートをしようって約束していただろ?」

 たしかにその約束はしていたけれど、まさか兄は今から大翔の着付けをして、私たちにデートに行けっていうつもり? そんなの困る。