「そうしてくれ」

 兄とふたりで増えていくお客様を見て苦笑いしてしまう。

「これはいよいよ早急に雇ったほうがいいな」

「うん、回らなくなりそう」

 でも、大翔に会いたくない私にとったらこの思いがけない多忙はよかったのかも。お店が落ち着くまでは会えないって言えば、きっとわかってくれるだろう。今日、仕事が終わったら連絡してみよう。

 その後もお客様に呼ばれて接客に当たり、落ち着いたのは十四時を回った頃だった。

「よし、桜花。この隙に昼飯食うぞ」

「そうだね。お兄ちゃん、たしか十六時から業者と打ち合わせだって言っていなかった?」

 私に言われると、兄は面白いくらいにハッとなった。

「そうだった! それで今日は十六時半に店を閉めるって貼り紙していたんだもんな。あまりの忙しさにすっかり忘れていたよ。じゃあ悪い、俺が先に休憩に入ってもいいか?」

「もちろんだよ」

 何度も兄は「ごめんな」と両手を合わせながら申し訳なさそうに店の裏に向かっていった。

「さて、と。今のうちに残りの在庫を並べておかないと」

 店内にお客様がいない間に急いで在庫を取りに行き、再び商品を並べていく。するとお客様が来店された。

「いらっしゃいませ」

 作業する手を止めて頭を下げて顔を上げると、そこには例の彼女が立っていた。固まる私と目が合った彼女は、嬉しそうに駆け寄ってきた。