「そうなの、実は大翔と喧嘩しちゃって……。先にお風呂入って今日はもう休むね」

 席を立ちながら言うと、「そうしなさい」「きっと大翔も後悔していると思うぞ」と口々に言われて苦笑いしてしまう。

 お風呂に入り、ベッドに入るまでの間もずっと大翔のことが頭から離れなかった。

「あ、メッセージが届いてる」

 ちょうど一時間前に送られていたメッセージには、【ただいま】の一言のみだった。

 昨日の私だったらすぐに【おかえり】って返信していたけれど、今は指が動かない。まだ心の整理ができていないのに、大翔とやり取りをする自信がなかった。

「あんなに綺麗な人に好かれたら、誰だって好きになりそう」

 それに買いに来てくれた時に彼女と少し話したけれど、愛らしさもあって礼儀正しいし、いい人そうだった。そんな人から告白されたら心が揺らぐよ。

 固く目を閉じると、空港で見たふたりが並んで歩く姿が嫌でも脳裏をよぎり、醜い感情に覆われていく。

 遠目に見てもお似合いで、なにを話していたのか聞き取れなかったけれど楽しそうでもあった。もしかして大翔、彼女のことが好きなのかな?

 実は彼女が本命で、私とのお見合いはやっぱり上杉のおじさまになにか言われて渋々だった?

 彼には強く否定されたけれど、どうしても嫌な妄想ばかりが広がっていく。

 何度もメッセージ画面を開きながらなかなか返信することができず、日付が変わった頃に【おかえり】とだけ送ってそのまま眠りに就いた。