「んも~アヤメちゃ~ん! 会いたかったわぁ~!」

「私もです、お母様!」


 屋敷に帰ってくるや否や、いきなり抱きしめられてしまった。お母様に。

 それと、こんな昼間なのにお父様がいらっしゃった。もうそろそろ王女様の結婚式でお忙しいはずなのに。うん、はずなのに。

 そして……


「久しぶりだね、タクミ君」

「お久しぶりです、公爵様」


 タクミも一緒に来ました。お母様からのお手紙で帰る時に一緒に屋敷に連れてきてね、との事だった。

 もしかして、いや、絶対そうだ。


「あらまぁ、ピンクサファイアじゃな~い! やるわね~タクミ君♪」

「あ」

「ほぉ……」


 お父様、目が笑ってませんよ。

 さて、このあとどうなるか。





「あの、アヤメさんの結婚を許可していただけませんか」

「ダメだ」


 えぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ!?

 やっぱりこのパターン!? というより、ダメなの!?


「あーなーたー」

「……」


 お父様、眼光。その眼光とても怖いですっ!! 鋭すぎてタクミ穴空いちゃいますっ!!

 こ、怖ぁ……もし私に向けられていたら多分泣く。うん、泣く。


「もうっ、まったく。あ、私は大歓迎よ~! こんなに立派なタクミ君が家族の一員になってくれるなんてとっても嬉しいわ~!」

「はぁ、ティア」

「あなた、私と結婚した時の約束覚えてるかしら」

「う”っ……そこでその話を出すか……」

「私はいつだってアヤメちゃんの味方よ? 何かあった時のために取っておいたんだから、ここで使わなきゃ意味ないじゃない」

「私は差し詰め悪者か何かか?」

「決まってるじゃない」

「……」


 お母様、強い……いったいどんな約束をしていたのだろうか。お父様タジタジだな。


「……はぁぁぁぁぁ」


 お父様のこんなに長いため息ついたところ見たの、初めてかも。


「アヤメが私達の娘になってくれたのは春、そして今はそろそろ秋が過ぎようとしている。まだ、一年も経っていないんだ。それなのに、もう結婚か」

「一番悪いのは王室よ。全く、何てことしてくれるのよ」

「はぁ」

「ねぇタクミ君、バートが言った通り、私たちはまだアヤメちゃんと出会って一年も経ってないの。だから、まだ婚約だけでもいいかしら。結婚は、もう少し待っててくれる?」

「あ、はい。そのつもりでした」

「そう、ありがとう。アヤメちゃん、こっちにいらっしゃい」

「え?」


 タクミと一緒に座っていたソファーの、向かい側に座っていたお父様とお母様。二人は、両端に移動して空いた真ん中に座るように言われた。どういう事だろうかと真ん中に座ると、隣のお母様がぎゅ~っと私を横から抱き締めた。

 反対側のお父様は、私の頭に手を置いてくれた。


「まだまだ私達の時間は短いわ、知らない事が沢山あって、それは時間をかけてゆっくりと知っていこうと思っていたの。でも、私達はアヤメちゃんの幸せを一番に願ってる。だから、もうちょっとだけ私達の所にいてほしいの」

「はい、私ももっとお母様達と一緒にいたいです」

「ふふ、嬉しいわ。あ、タクミ君は婿入りするのよね?」

「はい、次男なので」

「じゃあ結婚したらウチの別邸使ってね。そうすれば結婚した後も毎日会えるわよね。楽しみだわ~」

「ティア、もうその話はやめてくれ」

「あらバート、アヤメちゃんが結婚するのがそんなに嫌?」

「……」

「アヤメちゃんの顔見て言えるの?」

「……」


 お父様、視線向こうに逸らしちゃったぞ。子離れできないってこういう事を言うのかな。でも、お父様とお母様が私の事をここまで好きでいてくれているのはとっても嬉しいな。

 あ、そういえば。お兄様には何も言ってない。お兄様が聞いたらどう言うだろう。反対とかされたらどうしよう。あ、その時はお母様に助けを求めよう。お母様強いし。


「……もう、仕事やめようか」

「え”っ」

「この元凶となった王陛下と王妃殿下にお会いした際何と言ってしまうか分からない。いっその事、大事になる前にやめてしまったほうが……」

「ちょっちょっと待ってくださいお父様!!」

「うふふ、じゃあ仕事を辞めたらアヤメちゃんの事業のお手伝いする?」

「それもいいな」

「お父様!?」


 この国最強剣士って言われてたのにこんな事であっさり辞めちゃうの!? 私のせいで!? というか、そもそも王様が辞めさせてくれるの!?

 何か、ずーんと効果音が鳴りそうな顔をしている。そこまでお父様がダメージを受けていたとは、思いもしなかった。元気を出してください、お父様。


 その後の夜帰ってきたお兄様にご報告をすると、心ここにあらずな顔で食事をしていた。表情筋、働いてないな。いや、働いてる? どうだろう。