すっごくすっきりした朝。何となぁく昨日の事が夢に感じて、でも指にはちゃ~んと指輪があって。夜でもとても綺麗に見えたけれど、陽の光が当たるとまた違った輝きを放っている。うわぁ、こんなの貰っちゃっていいのかしらって思っちゃってる。どうしよう。


「お嬢様、ちゃんと起きていらっしゃいますからほっぺたを抓っても意味はございませんよ」

「あ、はは……」


 だってぇ……夢に思っちゃうじゃん。指輪貰っちゃったんだよ? 指輪だよ?


「その石は、もしやピンクサファイアでしょうか」

「ピンクサファイア?」

「はい、スフェーン王国でよく採掘される宝石です。普通のものはもっと濃いピンク色のものばかりですが、これは薄ピンク色ですね。中々出てこない希少性のあるピンクサファイアです」

「……」

「こんな貴重なピンクサファイアを婚約指輪にだなんて、やりますね。よく分かっていらっしゃる」

「……」


 ……私、これ貰っちゃってよかったのかな。何かお返しした方がいいのかもしれない。とは言っても何かこんなに凄い指輪に見合うものって何だろう……思いつかない。

 そんな時、コンコンッとこの部屋のドアがノックされた。あ、もしや。と思ったら正解。


「開けていいか」

「どーぞー」


 タクミでした。一体朝っぱらから何だ。変な顔しちゃいそうでやばいんですけど。


「風邪、大丈夫か?」

「え? 風邪?」

「昨日の夜外に連れ出したから。見たところ元気そうだけどどうだ」

「元気です!」

「んじゃ良かった」


 じゃあ食堂で待ってるな、と頭を撫でてから帰っていってしまった。え、ただの安否確認の為だけに来たんですか。あ、お母様にご報告しなきゃいけないんだっけ。元気ですのでご安心ください。


「……マリア、私顔変だった?」

「いいえ? とってもにこやかでしたよ」


 にやけてたか、マジか。やっちまった。これから食堂でどんな顔をしたらいいのだろう。気まずいわけではない、気を緩めたらにやけちゃうってだけ。絶対何か言ってくる。馬鹿にしてくるに決まってる。



「パ、パンケーキだぁ……!」


 やばい、目の前にカフェのメニューにありそうなお料理が並んでる。


「タクミって地球に行った事あるのね」

「ないわ」


 いや、地球に行かなきゃこれ作れないって。もう完成度120%よ。あ、もしかしてカフェの料理の写真とか見た事あるのかも。裕孝さん持ってたのかな。いや、持ってないか。


「ん~まぁ♡」


 パンケーキは甘いのも好きだけど、甘さ控えめのも好きなのよね。野菜があって、パンケーキがあって、スクランブルエッグがあって、あとこれは……ハム? この世界の加工食品ってよく分からないけれど、とっても美味しいです!


「やばい、太りそう」

「太れ」

「なっ! 乙女に何てこと言うのよ!」

「お前軽すぎ。昨日抱えたら軽くて吃驚したわ。だから食え」

「お腹破裂します~!」


 あ、昨日の夜、外からそのまま抱っこで部屋まで運んでくれたんだっけ。降ろせって言っても降ろしてくれなかった。子供体温だとか何だとかって言って。もう、失礼しちゃうよね。

 周りのメイドさん達に見られて本当に恥ずかしかった。部屋のドアは開けてくれたけど。もうっ。


「お嬢様、お客様がいらっしゃいましたよ」

「お客様?」

「はい」


 食べ終わった頃に、マリアがそう報告をしてくれた。

 この別荘にお客様? 私が郵便事業で視察中なのに、訪ねてきた人……もしかして?

 お客様を待たせちゃいけない、と思い食堂を出たのだ。でも、お客様は私と一緒にタクミも呼んで欲しいと言ったらしい。私達に、だなんて……もしかしてお母様がこっちに行かせた人、とか?



「あぁ! レリシアさん!」

「お久しぶりでございます、アヤメお嬢様」


 応接室にいたのは。私の良く知っているレリシアさんだった。


「お初にお目にかかります、ナカムラ子息。わたくし、アヤメお嬢様のダンスレッスンの講師を務めさせていただいております、レリシアと申します」

「あぁ、初めまして。タクミ・ナカムラです」


 そう、ラル夫人の他にレリシアさんが講師として毎回来て教えてくださっているのだ。


「早速ですが、アドマンス夫人からお手紙を承っておりまして」


 こちらをどうぞ、と渡された手紙。そして……


「これから、ダンスレッスンをさせていただくことになりました」

「え、ダンス? 私?」

「いいえ、ナカムラ子息です」

「……ん?」

「……俺?」


 そんなこんなで、私達の別荘休暇は過ぎていき、やっとこ首都に帰ることができたのだった。