「奥様からこちらをお預かりしております」


 朝食の時に渡されたのは……鍵? 茶色の鍵が一本。これを、お母様がって事?


「どこの鍵ですか?」

「さぁ」

「へ?」


 さ、さぁ? え、どういう事?


「お嬢様方でお探しください」

「自分達で? 宝探し、みたいな?」

「ずっと退屈なさらないようにと仰せつかっておりますので」

「なるほど……」


 じゃあ、ご飯食べ終わった後に探しに行こう。あ、因みに朝食はオムライスでした。とってもとっても美味しかったです。ケチャップで何か書いてほしかったんだけどなぁ、残念。タクミのは猫ちゃんでも書いてあげたかったんだけど。

 ここの侍女長さんにこの屋敷の地図を貰い、タクミと作戦を立てた。


「外観からはあまり大きくないって思ったんだけど、結構広いな」

「しかもこの屋敷の外にもいくつか建物あるし。これじゃあ探すのにも一苦労だね」


 この鍵、片っ端から鍵のかかってる部屋の鍵穴に指すって手もあるけれど……この鍵、何か石がはめ込まれてるんだよね。でも普通の石みたいで。この石は何だろう。

 さっきから、隣のタクミは鍵を窓から差す陽の光に当てて凝視してるんだよね。ん~? って感じで。何か見つけたのかな。


「何か分かった?」

「いや全く」

「おい」


 じゃあさっきのは何よ。期待して損しちゃったじゃない。

 これじゃ埒が明かないな、という事で片っ端作戦に移りたいと思います。


「鍵を渡されたって事は、鍵のかかってる部屋って事だよね」

「じゃあかかってる部屋片っ端に行くか」


 とは言ったものの……


「全然鍵が入らない……」

「マジか」


 そう、差込口がどれもこの鍵より小さいのよ。じゃあ一体どこの鍵なのよこれ。

 ここを知っているみたいなマリアにさっき聞いたけれど……


「ファイトです!」


 だってさ。教えてくれたっていいじゃない。


 数時間後。


「みつ、かんない……」

「はぁぁぁぁ……」


 広い、広すぎる。ここは4階建てだからそれもあって部屋が沢山あって迷子になりそうだ。

 マリアの、いったん休憩にしませんか? という声で今はお茶にしているけれど、もう脱力しかない。


「マリアぁ……ちょっとだけ、ヒントちょうだいよぉ」

「ふふ、だいぶ難航しているみたいですね。じゃあちょっとだけですよ」

「教えてくれるんですか!」

「はい。そのカギに付いている石。とある事(・・・・)をすると変化します」

「とある事?」

「はい、とある事です。この石が何の石なのかが分かれば場所が分かりますよ」


 とある事、かぁ……変化するって言っていたけれど、どんな変化? これがどんな名前の石かって分かればいいって事?

 さっき太陽の光にかざしてみたけれど変化なし。じゃあ……


「燃やす?」

「厨房で炙ってくる? それとも叩いてみるか?」

「あの、壊さないでくださいね……?」


 という事はこの二つも違うって事だよね。じゃあ……


「濡らす?」

「あぁ、ありそう。飲み終わったら行こ」

「うんっ!」


 うん、マリアニコニコしてる。もしかしてこれが正解? でもこれ錆びないかな、大丈夫かな。でもマリア笑ってたから何か細工とかしてあるのかも。

 んじゃ腹ごしらえな、とクッキーを口に突っ込まれてしまった。


「リスだな」

「分かります、そのお気持ち」

「……どういう意味よ」

「アヤメちゃんはいつも可愛いね~って意味だよ」


 真面目に答えろ。なぁにが小動物だ。すみませんね、チビで。でもこのクッキー美味しいです。誰が作ったのかは丸分かりだけど、一体いつ作ったんだろう。私達昨日到着したんだよね? 夕食の時? 手際良すぎ。さすがプロだわ。

 そして厨房に行き鍵を濡らしてみた。さてさてどうなるか、と思ったら吃驚!


「しましまだ……!」

「へぇ~」


 白と黒のしましまになった。へぇ~、こんな石があったなんて。こういう石って地球でもあったけど、こんなに綺麗なものは実物は初めて見たな。


「で、これが何なのかって事なんだけど……」

「図書室あったよな、ここ。石の図鑑あるかも」

「図書室さっきあったね」


 もうずっとここら辺をぐるぐるしてたから図書室の場所も覚えちゃった。客間とか、使用人さん達の住居、厨房に食堂に私達の部屋と色々把握してしまうくらいだ。

 確かこっちだっけ、と二人で図書室に向かった。さっき覗いたけれど、ここの図書室凄く広いんだよね。一体何冊保管されているのだろうか。とは言っても数えようとは思わない。きっと丸一日かかっちゃうかもしれないし。


「これ?」

「あった!」


 ちょっと古びた石に関する本。開いてみると、説明文と一緒に絵もある。これならすぐ見つかりそう。さっき濡らした石が乾いたらきっと消えちゃうだろうから早く見つけなきゃ。

 へぇ~、綺麗な石ばっかりだ。宝石の本は読んだことあるけれど、こっちも面白いかも。他の国の石も乗ってるし、これ部屋に持っていって読んでみようかな。


「あ、これ?」

「ちょっと違くない?」

「じゃあ……」


 パラパラ見てみても中々見つからない。飛ばしちゃったかな。そう思っていた時、あった!


「これか、『スチュレース』」

「これ……ヒュリス王国なんだ」


 海岸にあるらしい。成程、じゃあ海で濡れるとこんな感じになるんだ。へぇ~。でも、名前は分かったけど、これと部屋の場所の関係は?


「確か、ヒュリス王国はカーネリアンから見て……西方向か?」

「となると……この屋敷の西側!」

「一階と二階は見たから、三階か」


 よ~し行くぞ~!

 本を持って、私の部屋に寄ってもらってから三階に直行した。もう階段の場所も把握済みだ。


「疲れた?」

「ぜーんぜん!」

 
 楽しみだなぁ~、一体この鍵の部屋には何があるんだろう。


「何があると思う?」

「ん~、鍵がかかってるって事は何かの貴重品があるって事だろ? しかも夫人が俺らにこの鍵の部屋を探させたって事は何か面白いもんがあるって事は間違いない」

「ん~、宝石とか?」

「別荘に宝石を保管するか?」

「じゃあ、貴重な石とか?」

「ありそうだな」


 じゃあ誰がその石達を集めたんだろう。あ、まだ石があるって決まった訳じゃないけど。ここ、いつ建てられたのかも関係してくるかも。

 三階に到着して、西側に位置する部屋の鍵穴を一つ一つ確認していって。そして、とある部屋で足を止めた。ここだ。

 タクミが、鍵穴に鍵を刺すと、入った! そして、回すと鍵が開いたような音がする。


「開けるぞ」

「うん」


 ギィィ、と音を立てて開いた部屋。中は真っ暗で、どこかに明かりをつけるスイッチがないか探すと……あった。この異世界では明かりは入口の近くにあるスイッチを押すと天井にあるシャンデリアとかが付くようになっている。

 一体どんな仕組みになっているのかは詳しくは分からないけれど、地球と一緒だね。

 中を見渡すと……わぁ!


「絵画?」

「あぁ、結構あるな」


 壁にびっしりと飾られている、額縁に入った絵画。これは、風景画が殆どだ。とっても綺麗なものばかりで、海が描かれていたり、どこかのお城が描かれていたり。お城と言っても、この国にあるお城とは全く違う造り。てっぺんがまあるいやつとか。


「あ、これスフェーンだ」

「海岸?」

「そ。首都の近くにある海岸の絵だ」


 これは、たぶんあの写真? 画像を絵にする魔道具を使わず直接自分の手で描いた絵だと思う。描く時に台紙を固定する三脚みたいなものとか、絵具とかがあるから。ここ、もしかしてアトリエみたいな?

 ここに付いている窓にかかっているカーテンを開くと……


「あ、この絵だ」


 ここから見える景色を描いた絵を発見。なるほど、ここで描いたって事ね。


「確か……お父様のお父様、私のお爺様? が絵を描くのが好きって聞いたかも」

「へぇ、じゃあそのお爺様のアトリエって事か」

「剣の腕も凄かったんだけど、筆を持つのが好きだったみたいなの。なるほどね」


 じゃあ、この別荘を作ったのもお爺様だったのかな。

 今、お爺様とお婆様は亡くなられているから、実際に会う事は出来ない。でももし会えたのなら話を聞きたかったな。


「これはセオリシア、こっちはルーチェリンだな。直接行って描いたのかな」

「よく分かるね、行った事あるの?」

「本で見た」


 なるほど。直接行って描いたのかどうかは分からないけれど、以前はお父様と一緒で騎士団の総括をしていらした方だ。そんなに忙しい方なのに絵を描く時間はあったのだろうか。

 あ、もしかしたら若い頃に描いたものがこうして残されてるって事? う~ん、どうなんだろう。帰ったらお父様に聞いてみよう。

 お母様がこの鍵を私達に渡した意味が分かった気がする。


「色々とあるけれど、もうそろそろで夕食の準備しなきゃならないな」

「え、もうそんな時間?」

「んじゃ明日また来ようか」

「うん!」


 まだまだたくさん立てかけてあるものとかあるから、明日見に来よう。

 帰ったらお母様にお礼言わなきゃ。とっても素敵なお部屋を見せてくださってありがとうございます。