私は今、どうして採寸をされているのだろうか。


「まぁ! 何という神業なのでしょう!」

「しかもかぎ針一本だけでこんなに素晴らしいものを作り出せるなんて!」


 いきなりメイドさんに呼び出されたかと思えば、連れてこられた先にはパトラさんがいて。あと、周りには以前買った糸などが沢山並んでいた。

 さ、じっとしてて。と説明すら聞かされずに採寸をされてしまったのだ。

 周りを見てみると、レース編みかな、そんな綺麗な模様になっている敷物が沢山あって。確かドイリーって言うんだっけ、テーブルとかに敷く敷物のような大きなものからコースターサイズのものまである。色とりどりでとっても綺麗だ。丸いものや、四角いものもあって見ていて楽しい。


「これ、付けて」

「え?」

「畏まりました」


 出来上がったのは、これは付け襟なのかな。メイドさんが重ねて付けてくれたけれど、今着ているお洋服にぴったりで、重さも感じず軽い。

 刺繍もとっても繊細で細かい。これをあの時間で作り出しちゃうなんて何という神業だろう。

 この方は、この星に来てから動物に対する法律まで変えちゃったって本に書いてあった。動物の毛で織物などを作ったりして革命を起こしたらしいけれど、こういう事だったのね。

 あ、そういえば今アドマンス家の一角に新しい建物を作ってるの。それは、アドマンス邸にいる動物達の新しい住処だ。こんな所に動物達を押しやるな、とパトラさんに言われちゃったらしい。しかも、うちにいる馬やら警護犬(?)やらを手懐けてしまったらしい。

 本当に凄い人だ。あ、スペシャリスト?


「次はこれよ」

「え”っ!?」

「はい。お嬢様、失礼しますね」


 今度は、洋服のスカート部分を覆うような感じで被せられたレース。あらら、ピッタリだわ。もう最初からこの洋服に付いていたような出来だ。手触りもいいし。

 その次にベルト、後は頭飾りとパトラさんの手は止まる事は無く。

 私も彼女に教えてもらい挑戦してみたけれど、これがまた難しい。かぎ針でこれ全部作り出しちゃってるんだもん、こんな高度な技術を簡単に身に付けるだなんて出来ないに決まってる。


「そう、ここの穴から引っ張り出す」

「こう、ですか?」

「そう、そしたら次はこっち」


 小さいものを作ってるからここまでで済んでいるけれど、そっちにある大きな敷物を作るとなったらもう頭がこんがらがっちゃいそう。だっていろいろな模様が入ってるんだもん、本当に凄い。


「ひと編みひと編み愛情を込めるのよ」

「え?」

「じゃなきゃ、完成した作品は光らないじゃない」

「光る?」

「そうよ。何も語らないし、暖かくもない。そんなもの、ただの糸よ」


 なるほど……気持ちを込めて丁寧に作るって事かな?

 愛情を込めて、か……


「じゃあ、プレゼントで作ってみようかな。お母様達に」


 そうした方が気持ちが入りやすそう。

 パトラさんは、好きにしなさいってだけ言って続きを編み始めてしまったけれど。パトラさんってそういう性格なのね。素っ気ないって言うか。でも優しい。

 コースターは、お母様、お父様、お兄様、あとは……ふふっ、頑張って作ろ! 糸は何色がいいかな?


 その日一日、私はパトラさんのマネキンとなってしまったのだ。それを聞きつけたお母様が、次の日リアさんを連れてきてしまって。


「あらまぁ、とっても繊細。一体いくつの模様を組み合わせたの?」

「数えて」


 おぉ、これはもしやあまりそういうの考えて作ってない感じ?


「上から重ねてわざと透かすのもいいけれど、レースケープボレロもいいわね。総レースもいいかもしれない!」


 なんか、リアさんスイッチ入っちゃいました? なんか、ドレスの絵を描きだしちゃったんですけど。でもとっても綺麗な絵ばかり。あぁ、私もこれくらいの絵の才能があればよかったのに。だなんて事は口から出さないけれど。


「次これ」

「はい!」


 でもさ、何で私がマネキンなんです?

 昨日もそうだったけれど、パトラさんが作ったレースが私に付けられていくんですけど。今日はこの服でお願いしますねってシンプルな服にされて、そしたら次はリアさんの持ってきた服に着替えて、レースをとっかえひっかえ付けたり外したり。


「袖を全部レースにしたらどうかしら、ロングスリーブもいいけれど、ベルスリーブでもいいかもしれないわ。あ、オフショルダーも魅力的ね!」

「えぇ、となるとレースの種類は……」


 もう全くついてこれなくなってしまった。専門用語が多すぎて全く分からない。

 結局、何か新しいドレスを二人で考案して作る事になったみたいで。そして、また着てね! とリアさんに言われててしまったのだ。え、私まだマネキンしなきゃいけなかったんですか。

 でも、カーネリアン一の有名ブランド【ブティック・シェリシア】とルーチェリンの異世界人パトラシス・シェシェさんのコラボドレスって事よね? え、私マネキンになっちゃっていいの?

 きちんとマネキンのお仕事が出来るだろうか、そんな不安が出てきてしまったのだった。