「ご、ごめんなさぃ……」

「こぉら、謝らないの。もう喋らず眠りなさい」

「病人にとって睡眠は一番大事な事だ。だからよく寝て治して、私達に元気な姿を見せてくれ」

「はぃ……」


 熱を出してしまいました。朝から顔が真っ赤っか。起こしに来てくれたマリアは顔面蒼白で先生を呼びに行ってくれて、そんな様子を見た周りの人達も慌てふためいていて。さらにはお母様とお父様も血相を変えてこの部屋に駆け込んできた。

 落ち着いて、と言いたかったけれど彼女達の耳には入らなかった。心配かけてしまってごめんなさい。

 シモン先生は、最近の天気の変化のせいだって言っていた。その後に神官様も来て下さって、神聖力を施して下さった。風邪だったら神聖力で簡単に治せるけれど、元々私は身体が弱いから要安静と言われてしまった。


「今日は大人しく寝ていなさいね」

「はぁい……」


 神官様に治してもらって朝のような頭痛とかはなくなったけど、でもなんだか眠気があって。神聖力の効果、とか? だから、諦めて大人しく寝ます。……というか、もう眠いです。

 おやすみなさい、とお母様が頭を撫でてくれた所で、もう目は閉じてしまっていた。



 地球にいた時から、私は、いつも思ってた。病室にいた時、眠ってしまったら、お見舞いに来てくれたママは、いなくなっちゃうんだって。目を開けた時、いなくなってるんだって。

 ママはとても忙しい人だったから、私が眠ったタイミングで病室を出ていた。

 ママが忙しかったのは私のせいだって分かってる。だから、我儘なんて言えなかった。


 〝まだそこにいて〟


 だなんて。




「お嬢様、お目覚めですか?」

「うぅ……」


 次に目が覚めたのは、昼間。マリアが額のタオルを替えてくれた所で意識が戻った。


「マリア……」

「いかがしました? 息苦しかったりしますか?」

「ううん、大丈夫」


 握ってくれていたらしい、手がとても暖かい。

 もしかして、マリア、ずっといてくれたのかな……?

 食欲は? と聞かれ、あまりないと答えた。


「……あれ?」


 ふと、ベッドの近くに置いてある棚に綺麗なお花が挿してある花瓶が置いてあることに気が付いた。これ、なかったよね? 誰かが持ってきてくれたのかな。確か、このお花は庭にはなかった気がしたんだけど。見た事ないよね? でもこのお花、可愛いピンク色のお花で可愛い。


「これですか? これは坊ちゃまが持ってきてくださったお見舞い品です」

「アルフレッドさんが?」

「お嬢様がお目覚めになる一時間くらい前にこちらにいらしたんです」


 一時間前……私が寝てた時だ。だから気付かなかったのね。

 騎士団の副団長さんが、こっちに来て持ってきてくれたのね。何か用事があってこっちに来て、ついでに、って感じかな?


「それよりお嬢様、アルフレッドさん、ですか?」

「あ、はは……」

「それでは坊ちゃまが可哀想ですよ?」

「気を付けます……」


 なぁんか、私が呼んでもいいのかと躊躇ってしまうというか。まぁ、あまり会わない人だから、というのもあるかも。気を付けまぁ~す。

 これ、とっても綺麗なお花だけれど……でも、切り花か……


如何(いかが)いたしました?」

「……ううん、ちょっと、切り花だから、枯れちゃったら可哀想かなぁって」

「確かに……でも、もう切り花になってしまっていますから」

「あ、押し花にしたらどうかな」


 このままだと枯れてしまって捨てられてしまう。それなら、押し花にしてしまえばどうだろうか。折角アルフレッドさんが買ってきて下さったから、そのまま枯らしてしまうのはちょっと申し訳ないし。

 以前も、私は押し花を作った事がある。入退院を繰り返していたから、入院中にママがお花を買ってきてくれたことが何度もあった。でも枯れてしまうからといくつか押し花にして、ラミネーターで栞にした事がある。


「押し花、ですか?」

「え?」


 押し花とは? とマリアに聞かれてしまった。

 この世界には、押し花というものがないらしい。名前が違うのかな、と思い説明してはみたものの、それ自体がないのだとか。なら、作っちゃおっかな。

 でも、それもお見通しらしい。今日は大人しくしていましょうね、と止められてしまった。

 ではもう一眠りしましょうか、そう布団の中に戻されてしまった。


 そして、次に目が覚めた時。


「……私って、いくつだっけ」

「……16、でございます、が……」


 目を開けたら目の前に、ふわふわしたうさぎさんがいた。そう、うさぎさん。うさぎのお人形だ。ブラウンで可愛いけど、結構大きい。こんな大きなお人形、貰った事ないかも。


「お母様、私の年齢知らなかったのね」

「違います、坊ちゃまです」

「……シモン先生呼んだ方がいいかな、私ちょっと耳が遠くなっちゃったかも」

「いえ、大丈夫です。正常です」

「……」


 アルフレッドさんが、お人形……あの人が、うさぎのお人形を……近衛騎士団の副団長が……可愛い大きなお人形を……

 謎が、増えてしまった。



 因みに、その日うさぎのお人形を抱えて帰ってきた彼を目撃したマリアが当主様達に一目散に向かって報告。夫人は、爆笑していた。


「ふふっ……ふふふっ、あの子がうさぎさんを……ふふっ……」

「奥様、笑い過ぎですよ」

「あら、マリアも堪えてるじゃない」

「……ふふっ」

「あの子がお人形をだなんて、可愛いじゃないか。女性にプレゼントなんてした事ないから、結局人形になったんだろうな。だが、フレッドはアヤメの年齢を知っているのか?」

「ちゃんと教えたわ。それで、アヤメちゃんは?」

「お布団で一緒に寝ていらっしゃいますよ」

「あらあら、気に入ってくれたのね♡」

「ま、良かったじゃないか」



 後日、私が部屋でうさぎさんと遊んでいたところを目撃されてしまった。つい、だ。つい、「うさぎさ~ん、はーい!」って腕を動かしちゃってて、そしたらお母様が丁度見て笑ってた。そこまでならまだ良かったのに、それをお父様に告げ口しちゃったのよ。酷い、お母様。