今、私の周りではドタバタ騒ぎ。朝から何があったんだ、って思うでしょ? でもね、悪いのは私なんです。


「もう、頑張りすぎないでって言ったじゃない!」

「ごめんなさぃ……」

「大丈夫ですよ、夫人。熱が出てしまっただけで風邪という事ではありませんから。神聖力を施したので後は安静にお休みいただければ」

「本当に、ありがとう」

「いえ、お大事に」


 そう、熱が出てしまったんです。やることいっぱいで頭がこんがらがっちゃったのかな。

 全く、これしきの事が出来ないなんて何とみっともないんだ、私は……と思っている事を目の前のお母様とお父様にバレたら大変な事になるから思わないようにしよう。


「今日はゆっくり寝ていなさい。勿論仕事は禁止だ」

「……はい」

「よろしい」


 今日はナジアンス侯爵様が【フラワーメール】の件でこっちに来る予定だった。でも、お母様が対応してくれるみたい。本当にごめんなさい。

 じゃあひと眠りしなさい、とお母様に言われてしまい目を閉じた。疲れてたのかな、すぐに意識が落ちていった。


 次に目が覚めたのは、大体お昼頃だった。近くにいたマリアがすぐ気付いてくれて、喉が渇いていたからお水をくれた。


「お腹は空いていますか?」

「うーん、ちょっとなら食べられるかも」

「分かりました、では料理長にそう伝えてきますね」

「うん」


 またまた眠っている最中にお兄様が来て下さっていたみたい、お花はなかったんだけど、初めてこちらで風邪をひいてしまったあの日みたいにプレゼントを持ってきてくれていた。お父様から、お花はダメだと言われてたみたい。あぁ、押し花にしちゃうからって事ね。

 しかも、プレゼントはまたまた動物のお人形。今度はわんちゃんだった。ふさふさの茶色いわんちゃんで可愛いし触り心地抜群だ。お兄様、お人形を選ぶセンスがあったのね。プレゼントを選ぶセンスはどうかと思うけど。後でお礼を言わなきゃ。


「嬢ちゃん大丈夫か」

「あ、中村さん」


 私が頼んだ食事を持ってきてくれたのは、中村さんだった。これは、おじやかな? 卵だぁ!


「風邪にはおじやって昔っから言うからな。取り敢えずおじや食って寝とけば風邪なんて治っちまうよ」

「あはは、じゃあいただきます」

「熱いから気を付けろよ」


 まぁ、本当は風邪ではないし神聖力で治ってはいるんだけどね。

 とっても良い匂いを嗅ぐ和される。ん~、ではいただきます!


「はふはふっ、ん~! おいひい!」

「わっはっはっ! 本当に嬢ちゃんは美味そうに食うなぁ」


 なんかもうこれだけ食べれば復活できるんじゃないかって思えるくらいとっても美味しい。ん~最高! 出汁もきいてて、卵もご飯も他の食材もとっても美味しい!


「ウチの息子や孫共は小さい頃は風邪引いてた癖して少ししたらなっかなか風邪引かなくてよぉ、一体誰に似たんだか」

「中村さんは?」

「俺かぁ? 風邪なんて全然引かねぇよ。あぁ、俺か。わっはっはっ!」

「あははっ、確かに中村さんなら風邪菌ふっ飛ばしそうですね」


 いいなぁ、風邪菌を寄せ付けない頑丈な身体をお持ちで羨ましいです。しかも106歳でもこんなに元気なんだから本当に尊敬します。


「それでよぉ嬢ちゃん、嬢ちゃんは意外と可愛いもん好きか」

「あ”っ」


 中村さんの視線の先には、ベッドの近くの棚に並べられているお人形たち。あと、ついさっきもらったわんちゃんのお人形も。


「……お兄様から頂きました」

「兄貴? あぁ、あの仏頂面か。アイツがこれを?」


 アイツは結構こういうのが好きなのか、と誤解されちゃったみたい。違います、ただお兄様は女性にプレゼントをするのがほぼ初めてで分からなかっただけです。


「あまり表情を外に出すのが苦手な人なんですけど……ちゃんと優しい人ですよ。私がこの家の家族になった時も、お仕事が大変であまり帰ってこない人だったんですけどわざわざ帰って来てお茶をしてくれたり、これをプレゼントする為に今日来てくれたりしたんです」

「そうか。異世界にいきなり来て戸惑った事だろうが、苦労してないようで安心したよ」

「心配してくれたんですか? ありがとうございます」

「異世界転移ってやつか。俺もここに来るまで色々あったからなぁ。飢え死にしそうになったり、獣に食われそうになったりとな」

「え”っ!?」

「周りの助けがなけりゃ、今の俺はこんな所にいねぇさ。あの時はトラックにはねられて人生が終わってたかもしれねぇ。だけど生きてたんだから何が何でも生き抜いてやるって思ったんだ。そしたら、なんやかんやで家族が出来ちまってもう孫までいるんだぜ?
 地球での記憶はあまり覚えてねぇが、俺はこっちに来れて良かったと思ってるよ」


 なかむらさんはこっちに来て80年だっけ。新しい場所で生活する為に沢山の苦労があったんだと思う。でも、幸せそうだ。私も、この星で頑張って生きて幸せにならなきゃいけないよね。

 なんか、使命感みたいなのが出てきたかも。


「嬢ちゃんは弱っちいからな。同じ異世界人としても、同じ故郷を持つ日本人としても、嬢ちゃんが元気にいられるようなんかありゃ俺に言えよ」

「ありがとうございます、中村さん」

「嬢ちゃんよぉ、ナカムラはうちに何人いると思ってんだ。気持ちわりぃから裕孝にしてくれ」

「あはは、はい、そうします」


 知らない星に来てしまったけれど、同じ日本人がいてくれて本当に嬉しい。ちょっと寂しい気持ちがあったから。


「裕孝さん、ありがとうございます」

「なんだよ、いきなり」

「あはは、感謝していますよ」

「気持ちわりぃな、全く」


 酷いなぁもう。

 いきなり帰れなくなって、気持ちの整理も付かなくて。でも、裕孝さんのお陰で懐かしい故郷の料理が食べられた。本当に、ありがとうございます。

 ったく、もうさっさと寝ろ。と食べ終わっていたお皿を取られてしまった。

 よし、もう一眠りしようかな。やる事ないし。お母様に禁止されちゃったし。だから首まで布団を被って目を閉じた。





「……あれ?」

「あら、起こしちゃった?」

「あ、いえ」


 何故か、起きたらパトラさんがいらっしゃった。あれ、おかしいな。観光に行って……と思ったらもう外が真っ暗だった。帰ってきたのね。


「大丈夫?」

「あ、はい。神官様が治してくださいましたから」

「あぁ、あのペテン師の子孫ね」

「え”っ」


 うわぁ、ペテン師って言っちゃった。でも、二人目の異世界人様は騙してなくない? いや、お金沢山持ってる人達を騙した事はあるかもしれないけれど。でも直接会った事がないから言えない。

 さて、一旦起きようかな。と思ったらパトラさんがそれを止めた。掛布団を押さえられてしまい起きれなかった。え、まだ寝てなさいって事?


「こんなに弱弱しいんですもの、どこかで倒れでもしたらどうするのよ。さっさと寝なさい」

「は、はい……」


 ……何も言い返せない。

 と、思っていたらパトラさんが口を開いた。あれ、これ、歌? 発音は全く分からないからなんて歌詞なのか聞き取れないけれど、とっても素敵な声とメロディー。


「どういう曲なんです?」

「ミロスが好きな曲」

「ミロス?」

「ミリシィエスティウ」


 ……ん? あれ、おかしいな。その名前、ついこの前聞いた事あるぞ。……動物図鑑で。もしかして、パトラさんが飼ってるペットにいつも聞かせてるやつ?

 聞きたかったけれど、さっさと寝ろ感が強かったので黙って寝た。