……これ、どうしたらいいのだろうか。

 外に用意されたテーブルに、私とドリファリス王太子殿下とアルムホルド王太子殿下が座っている。すんごくニコニコして私を見ている。

 タクミ達は毎日王宮の厨房にいるらしく今日のようかんはそこで作ってくれたもの。わざわざ店に行かなくても俺らはここにいるんだから持ってけ、と言ってくれて。だからそのまま殿下のいらっしゃる宮殿に足を運んだ所までは良かった。

 けれど、ドリファリス王太子殿下が通りかかって参加させてくれと言い出して、こうなってしまったのだ。


「ドリファリス殿はもう貰いましたか、ご令嬢からの招待状」

「えぇ、とても素敵なレターセットで気に入りましたよ」

「ピペリメの花が描かれていて感心しました。自国に帰ったら皆に自慢しようと思っているんです」

「私もそのつもりですよ。あの夜の王城が描かれた切手も素晴らしい。アドマンス嬢、あの切手とレターセットは今後販売予定はありますか?」

「え、あ、いえ、今回特別に作ったので……」

「そうでしたか、それは残念ですね」


 ……私の話ばかりですね。

 でもこれはチャンスなのでは? サミットの時は皆さん平和的だったから、もっとスフェーンの事を知ってもらって貿易をしてくださるかもしれない。

 殿下だって、どうしてここに参加してきたのか何か意図があるはずだ。


「ほぉ、これがスフェーン王国特産品である緑茶ですか」

「えぇ、ナカムラ家が栽培している茶葉です」

「なるほど、とても美味しいですね。ウチのレミティーとはまた違った香りと味だ。そしてこれが、ようかんですか」

「えぇ、これも絶品ですよ」


 今回王太子殿下御一行がいらした際、不足していた小豆も持ってきてくれていたみたいで。だからあんこを使うようかんも作れたのだ。はぁ、美味しいです。きっとカリナがこれを聞いたら飛んでくるかもしれない。それだけ恋しがってたもんね。


「確かアヤメ殿は、ナカムラ殿と同じ国で育ったそうだな」

「は、はい」

「今、ナカムラ殿の孫にあたる令息と令嬢がこの国で商売を始めたみたいでしてね。ご令嬢はいつもその店に行っては故郷の味を堪能している様なのです」

「へぇ、それはいいですね。突然こちらに来てしまい、恋しがってしまっていたのではないですか?」

「は、はい、そう、ですね……」

「令息殿が言うには、ご令嬢は甘味が好きなようでしてね。ですが今回いつもの仕入れルートが大荒れ状態で手に入れられず食べられずに泣いていたと聞きました」

「おや、それは災難ですね」


 ……確かに甘味は好きですけど泣いてませんよ、泣いていたのはカリナの方です。


「どこか、新しいルートを確保できればいいのですがね」

「なるほど。確か、スフェーンとカーネリアンとの間に我が国が位置していましたね」

「あぁ、そういえばそうでしたね」


 ……あの、なんか……あれ? お二人?


「確か、数十年前にしょうもない喧嘩で飛び火して頭に来たそちらの先代王陛下が貿易などを全て絶ってしまったと聞きました」

「えぇ、先王はだいぶ血圧が高く小さなことでも頭にきてしまう性格でいらっしゃったので」


 ……アルムホルド殿下、自分のご家族様をそんな風に言ってしまっていいのですか。ドリファリス殿下も、しょうもない喧嘩とか、いいんですか。

 でも、お二人、まさか……


「そちらの商会には、確か保存食が豊富だったと聞いています」

「えぇ、パスタに米、梅干しにジャムにドライフルーツ、肉魚も保存技術で長期保存を可能としたものが多々ありますね」

「ウチは国が広大である為災害なども多く発生するのです。魔術師は多くいますがすぐに駆け付けることはできません。もし助かったとしても食事が出来なければ餓死してしまう可能性もある。
 ですから食糧不足対策として日頃から保存食というものを用意していた方がいいのではないかと今議案が出ていましてね。もしよろしければ、ウチの方にも分けて頂ければと思ったのです。
 ですが、そちらとの貿易をまた再開、なんて都合のいい話ですよね?」

「お気持ちは十分に分かりますよ。セオリシア王国との貿易を再開してくださるのでしたらこちらは嬉しい限りです。ではすぐ自国に伝えて外交官を送りますね」

「分かりました、こちらも王陛下に話を付けておきます。と言っても、きっと陛下も快く受け入れてくださる事でしょうね」

「それは良かったです。これから、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 ……もしかして、もう既に、話、まとまってた、とか?

 ニコニコしてるけど、もしかしてそういう事……? なんか、わざとらしい気がするんだけど。

 別に、私が何かしなくても、良かったって事……?


「良かったですね、アドマンス嬢。また好きな甘味が食べられますよ」

「……はい」


 私、そんなに食い意地張ってません。カリナと一緒にしないでください。


「アドマンス嬢が甘味が好きだったとは初耳でした。私の分もどうぞ」

「あ、いえ、それは殿下の分では……」

「そうですよ、代わりに私の分をどうぞ、アドマンス嬢」

「いえ、それも殿下の分でしょう……」

「ククッ、アドマンス嬢はお優しいですね」

「……」


 助けて、誰か。

 と、いう事で新しいルートが確保出来る事になったのである。私、余計な事したよね。言って下されたよかったのに。