サミットを終えた私達は、【なかむら】向かう事になった。王太子殿下とのお茶会の約束をしてしまった為である。スフェーンの事を知ってもらう為に【なかむら】の緑茶とお茶菓子出してみたらどうだろうかと思ったのだけれど……


「……あれ?」


 もう昼営業が終了しているはずなのに、お店の前には馬車がある。中も何やら騒がしい。お取込み中かな、と思いつつお店のドアを開けてみたら……


「あ」

「アヤメちゃん!」


 いつものスタッフ4人の他に、あれ、スフェーンの王太子殿下に中村さん、ナカムラ夫人がいて。あれ、スフェーン王国の人達大集結ですか。

 私、違うタイミングで来ればよかったかな。


「とにかく俺はやらねぇからな」

「はぁ!? ふざけんなジジイ!! 俺らがやれって言うのかよ!!」

「100超えたジジイを働かせるつもりかよ、薄情なやつだな」

「王宮で毎日鍋振るってるだろーが!!」

「それは優秀な奴らとイズミがいるからだろ」

「ふざけんなジジイ!!」


 なんか、私場違いだった?

 一体何があってタクミと中村さんがこんな事になってるのかしら。それより、イズミさんって一番下の妹さんだよね。私と同い年だっけ。中村さんと一緒って事は……王城で一緒に鍋振るっちゃってるの!? えぇえ!?

 そう思っていたら、ナオさんがこっそり教えてくれた。


「サミットで来てるお偉いさんがお米食べたいって言い出したんだって。だからこの国の王様からスフェーンの方に会食で作ってほしいって言われたみたいなんだけど、でもナカムラ様が嫌だって駄々こねちゃってね」

「あらぁ」


 え、マジですか。確かに、会議ではお米と炊飯器の話は出たしこの後その件に関してルアニスト侯爵とナカムラ商会を交えて色々と話し合いもある。

 まさか、ここで米を食べたいと言い出すとは。となると、確かに米を知っているスフェーンの方が料理を作らなければならない。


「俺は嫌だからな。ただのお偉いさん達の我儘に俺らが付き合ってられるか」

「ふざけるな馬鹿孫が」

「こっちのセリフだクソジジイ!!」

「こらタクミ、殿下がいらっしゃるのよ」

「……大変失礼いたしました、殿下」

「気にするな、君の気持ちも分からなくもないからな」


 あらら、これはやばいな。でも、それって何時なんだろう。偉い方々に出すって事は時間かかっちゃうし、会場は王城だと思うから王城の厨房で作らなきゃいけないって事になるでしょ? 使った事のない場所で作るのは大変だと思う。


「何だ、ビビってんのか? これくらい男ならやってのけろ」

「じいさんがやればいいだけの話だろ!! 何でじいさんがいるのに俺らが作らなきゃいけねぇんだよ!!」

「俺は客人として来てんだ、ここに来てまで仕事なんてやってられっか」

「はぁ!? ここには仕事で来たんだろーが!!」

「嬢ちゃんの顔を見に付いて来ただけだ」


 タクミ、中村さんの前だとこんな感じなのね。見てて微笑ましい。いや、今はそんなこと思っちゃダメなんだけどさ。……あの、殿下。とっても微笑ましい顔でお二人見てません?


「タクミ、ナナミ、そういう事だから頑張ってちょうだい」

「母上!」

「ママぁ! 私達を見捨てる気!?」

「何言ってるのよ、人聞きの悪い。そんな訳ないでしょ」


 ……私、ここにいていいのだろうか。

 そういえば、あの場でお米の話を出してきたのは中村さんだよね。……言わないでおこう、うん。

 では頼んだぞ、と殿下方は帰っていってしまったのだ。

 タクミとナナミちゃんは……ズーン、と効果音が鳴りそうなくらい暗くなってる。


「ナカムラ様の無茶振りは今に始まった事じゃないじゃない」

「本当に、丸投げはやめてほしい」

「どうしろってんだよ、本当に……」

「ただでさえサミットの影響で客が増えて、こっちは忙しいってのにさぁ……」


 で、アヤメは? と聞かれたので殿下とのお茶会の日の朝ようかんを買いたいのとお願いした。用意してくれるみたいなんだけど、大変になっちゃうよね。なんかごめんなさい。

 頑張れ、ファイト。と応援エールも送ってから屋敷に帰ったのだった。