今日はとてもいい天気。

 私達は公園の木の下にレジャー用の布を敷き座ってお弁当を広げていた。さて、その相手とは。


「おにぎりのお味は?」

「最高」

「即答かよ……」


 そんな呆れ顔を見せてきたのは、私の横に座るタクミ。今日は約束の月曜日でした。デートというやつです。なのでマリアもジルベルトもいません。

 あ、でもウチの馬車で来ました。家紋が入ってない使用人が使う用の馬車です。お母様にこれを使うのが条件で許可を頂いたからだ。家紋入りだと落ち着かないからって気を遣って下さったみたい。

 でもさぁ、さっきのはしょうがなくない? もう胃袋鷲掴みされてるんだから。ついでにお弁当の中身はおにぎりと唐揚げと卵焼き他諸々。もう最強だよね。


「こんぶどれだろ」

「俺の鮭」

「一個ずつでしょ? ん~」


 おにぎりはランダムだそうだ。タクミも分からないみたい。種類は鮭、こんぶ、おかか、塩むすび、梅干し。私の今の気分はこんぶなので、絶対当てたいところ。

 これかな? と取ってみたけれど残念塩むすび。


「あ、これこんぶだ」

「あ~!!」

「え、そんなに食べたかった?」

「うん」

「しょうがねぇな、俺は心優しいからな。半分こしてやるよ」

「ありがとうございます。じゃあ私のも半分あげる」


 うん、美味しい。私が今まで地球で食べてきたものとは味は微妙に違うんだけど、私としてはこっちが好み。ゴマも入ってて美味しいです。いくらでもいけちゃう。


「なぁ、帽子取らないのか?」

「ん~、何となく」

「ふ~ん」

「あっ!」


 こんぶおにぎりを食べていたらいきなり帽子を取られてしまった。別にここ日陰だからいいだろ、って。でもお母様が帽子もセットでコーディネートしてくれたわけだし。


「何、バレたくない?」

「そうじゃないけど……だって、兄妹みたいじゃん」


 私とタクミは同じ黒髪に黒目。この国で同じ人は見た事がないから、目立っちゃう。顔だって日本人顔だ。領地にいた時だって、ナナミちゃんと三人で兄妹って思われちゃったし。何となく、気になっちゃうというか。

 ほら、この公園にも貴族の人達がちらほらいるから。あの人達が私達を見た時どう思うか分からないじゃん?


「俺的にはこっちのがいいんだけど。ほら、着飾ってくれたわけだし?」

「……お母様が選んでくれたから」

「何、乗り気じゃなかったのか。俺の為だと思って嬉しかったんだけど?」

「……」

「ふ~ん、残念」

「……いや、その……まぁ、デートだし? でもした事なかったから……まぁ、ね」


 口をもごもごしていたら、クスクス笑い出して。恥ずかしいな、もう。言わせるな。


「可愛い」

「……有名店のお洋服だもん」

「服、()

「……」

「何、照れちゃった?」

「煩い」

「照れ屋め」


 煩いなぁもう、照れてないもん。ただこういうのに慣れてないだけだもん。

 ……というか、ここ、男女ペアの人達多くないですか。え、デートスポット的な? まぁこことっても綺麗だからもってこいな気もする、けど……狙ったな? まぁ間違ってはいないけれど。


「……何」

「んー?」

「あまり見ないでくださいませんか」


 さっきからガン見してくるんですけど、やめてもらえませんか。


「なーんか、いいなって」

「は?」

「いや、なんか、独り占めってやつ? 俺こーゆーの初めてだからさ、なんかいいなって」

「そ、ですか……」


 え、タクミってこういうの言う人だっけ。滅茶苦茶良い笑顔じゃないですかお兄さんよ。私どんなリアクションすればいいんですか。


「次、どこ行きたい?」

「お食事処・なかむら」

「いつも行ってるじゃねぇか」

「あはは、タクミも一緒にお客さんする?」

「いいな、それ面白そう。ナナミ達どんな顔するか見ものだな」

「じゃあ約束ね」

「おっけ~」


 さて、その時は何を注文しようかな。何か違うメニュー頼んじゃってもいいのかしら。そしたら、作るのはナナミちゃんって事になるんだよね。ナオさんとリカルドさんは接客担当、ナナミちゃんとタクミが料理担当らしいから。

 タクミ、何頼むんだろう。難しいの頼みそう。

 そんなこんなで楽しい時間を過ごした。楽しい時間は進むのが早いから、あっという間に夕方になっちゃって。途中でタクミを降ろして私は馬車で家に帰った。

 ん、だけど……


「おかえり、アヤメ」

「た、だいま、かえり、ました……お父様(・・・)


 笑顔のお父様が、出迎えてくださいました。奥にいるお母様は、呆れ顔。あ、マリアとジルベルトは困ってる。もしかして、バレた? いや、完全にバレた。


「誰とどこに行っていたのかな」

「……」

「話は長くなりそうだからな、中でキッチリ話をしようか」

「は、い……」


 お母様、助けて。


 話し合いは、お父様の「連れてきなさい」という言葉で締めくくられた。ごめん、タクミ。あ、でも言わなかったのはお母様に言われたからであって、隠すつもりはなかったんだよ。ズタボロ言ってたのはお母様であって私じゃないんです。



 後日、タクミにその話をしたら思った通り顔を青ざめていた。ナナミちゃん達には、


「骨は拾ってあげるよ」

「アンタの料理の味は一生忘れないから安心して」

「タクミさんの事は俺がちゃんと男爵様達に伝えます」


 と、言われてしまった。いつもならそこでツッコむところなんだけど、彼にはそんな余裕はなかったみたい。しかも、「いつも使っている剣を持ってこさせなさい」だなんて伝言を任されてしまったから余計だ。これ、まさか決闘とかないよね。