意識が浮上したのは、朝だった。陽の光が、とても眩しい。

 それから数秒後に、来ていたらしいメイドさんの声がして。起きていた私にすぐに気が付いたらしい。大丈夫ですかとだいぶ心配されてしまって。すぐに奥様とシモン先生をお呼びしますねと走っていってしまった。


「アヤメちゃん……良かったぁ……」


 と、メルティアナさんには泣かれてしまった。本当に、申し訳ない事をしてしまった。薬がないんだから熱を出してしまうのではないだろうかという事は考えれば分かる事だから、言っておけばよかった。

 まぁでも、言い訳をするのなら、異世界に来ちゃったらしい私にそんな余裕がなかった。


「2日も熱が下がらないし、意識もなくて本当に心配したのよ」

「あ……すみ、ません」

「いいのよいいのよ、目が覚めてくれてよかったわ」


 そこまで寝てたのか。あまりそんな感覚ってないんだよね。本当に、皆さんごめんなさい。


「相変わらず顔色は悪いですが、熱は下がっているので少しは安心ですね。ですがまた熱を出す事はあるでしょう」

「私も今日からこの家に滞在する事になりましたので、その際には神聖力を施せると思います」

「それなら安心ですが、早めに薬を作らなければなりませんね。もう少しで出来上がると思いますので、それまでの辛抱です。頑張りましょう、アヤメさん」

「はい、よろしくお願いします、先生!」


 先生はそう意気込んで帰っていった。頑張れ、シモン先生。

 まさか神官なんて人がいるなんて。昨日の、神聖力? あ、昨日じゃないのか、3日前か。でも凄かった。何だか信じられないなぁ。

 とは言っても、ここはファンタジーみたいな世界だからあり得なくはない。だって妖精見たし。異世界に来ちゃったし。そもそも私がここにいる事自体がファンタジーなんだから。

 さっき聞いたんだけど、神官様の使った神聖力という力は、(いや)す力らしい。と言っても簡単な外傷、風邪などを治す程度。私の場合だと病が重すぎて治しきれないのだとか。

 その場しのぎって言ってたけれど今回は前より本当に楽だった。確かに(いや)す力だ。神聖力、凄い。


「わぁ、可愛い」

「ふふ、とってもお似合いですよ」


 汗で身体がべたべただから、濡れタオルで身体を拭いてくれるようで。いや、一人で出来ますと言ってもメイドさんは聞いてくれなかった。

 パジャマも取り替えようとしたんだけど、私はパジャマ今着てるのしか持ってないからメイドさんが用意してくれた。ワンピースのパジャマだなんて初めてだよ。こんなに可愛いの、借りちゃっていいのかな。


「ではお嬢様、はい、ばんざーい」

「はーい」


 結構子ども扱いじゃない? 言わないけれど。お邪魔させてもらってる側だから文句は言いません。……16歳だって知ってるはずなんだけどなぁ。おかしいな。

 因みに、彼女はマリアさんというそうだ。水色の綺麗な髪をした女性。この異世界は皆さんは容姿が全然違うみたい。黄緑色の人や、オレンジ色の人、青色の人、メルティアナさんも綺麗なピンク色だった。

 私と同じ黒の人は全然いないから、何だか新鮮に感じる。


「初めまして。アルバート・アドマンス、アドマンス公爵家の当主だ」

「私の夫よ」


 今度は、とってもダンディな方がやってきた。しかもイケメン。夫婦で美男美女ですか。眩しいな。あ、髪は青色ね。歳は、メルティアナさんと同じくらい? 当主って事は、この家の主って事だよね。

 彼は、私が目を覚ましたと聞いてすぐに帰ろうと思ったらしいんだけれど、仕事が立て込んでいてその日の夜になってしまったらしい。でもその時は私熱出してたから気付かなかったという訳だ。

 まさかの貴族様。屋敷って言ってたしまわりもすごく綺麗で高級感もあったし、メルティアナさんドレスだったしメイドさんもいたから、お金持ちとかそういう人の家だと思ってたんだけど、まさか貴族の方だったとは。

 しかも、貴族の中で一番上? 王族の一つ下? 男爵、子爵、伯爵、侯爵で公爵、だっけ。合ってるかどうかわからないけれど。でも、凄い所に拾われてしまった。しかも、公爵様、それにお城の騎士団総括? とっても偉い人だった。


「え? いるんですか?」

「そう。アヤメちゃんがこの世界で5人目ね」


 私の他にも、異世界から来た人はいたらしい。数十年に一人とか。私の前は、40年くらい前。でもこの国、カーネリアン王国では初めてらしい。

 こちらの人達は彼らを〝異世界人〟と呼んでいるみたいで。じゃあ私も〝異世界人〟の分類に入るのか。


「彼らは私達とは違った力や知識を持っていて、皆国に貢献してくれた者が多かった。だから、その者達に感謝を込めて、これから現れるかもしれない異世界人を心から歓迎しようと国々で決まりを作った。もちろんこの国もだ。
 異世界から知らず知らずにこちらに来てしまい、右も左も分からず、知っている人もいない。そんな異世界人を放っておけるような者達はこの国にはいないよ。
 だからアヤメちゃん、安心してくれ。この国も、勿論私達も君を歓迎するよ」

「あ……私……」


 貢献、だなんて出来ないと思う、んだけど……いいのかな。私は16歳、高校1年生のはずなんだけど、病院にずっといたからちゃんと勉強も出来ていないし、あまり人と関わった事もない。そんな私で、いいのだろうか。


「そんなに難しく考える事はないわ。期待とか、そういうものではないの。ただ、ゆっくりと安心して生活してほしいの」

「あぁ、私達に遠慮なんていらないよ」

「それに、目が覚めた時妖精達が現れたでしょ? 彼女達は、異世界人が初めてこの星に来た時初めて現れたの。それから度々見るようになってね。だから、他の星とこの星を繋げたのはもしかしたら妖精達なのかと思われてるの」

「妖精……」

「妖精がこちらに異世界人達を導いた、それは何か意味があるのかもしれないと思うわ。だって、アヤメちゃんが治るかもしれない薬草を持ってきてくれたんですもの」


 そっか……私が病人だから、こっちに連れてきてくれたのかもしれない、とも考えられる。

 私を選んだ理由。もしそうだったら、もう一度お礼を言いたい。


「妖精からも歓迎されている、という事だ。だから、難しく考えなくていい」

「その……迷惑、とかは……」

「そんなもの、全然ないわ。むしろ嬉しいわ、とっても可愛らしいアヤメちゃんの役に立てるのなら、ね」

「私達に出来る事があるのなら、喜んで手を貸すよ」


 まさかここまで言われてしまうとは、と正直驚いてる。だって、私って色々と手のかかる子だもん。もう早速熱出して吃驚させて心配かけさせちゃったにもかかわらず、こう言ってもらえるだなんて。

 お医者さんの診察や、薬、神官様の処置だってタダではないに決まってる。

 今までの異世界人の方々の頑張りで、私はこうして優遇されている。だからそのお陰でこうして生きていられる。

 それもあるのだろうけど、その決まり事に従っているとか、そういうのじゃなくて、本心で言ってくれてる。お二人と話してて、そんな風に感じた。

 こんな私にここまで言ってくれた。だから正直、とても嬉しい。

 私は異世界人だから、実は見返りを求めている。だなんて……お二人と話していると、そんな風には全く見えない。とっても心優しい人達なのかもしれない。

 そんな二人に拾ってもらえた私は、とっても幸運だったのかもしれない。

 こちらに来ちゃった事が不幸な事故だったのかどうか分からなかったけれど、案外そうじゃないのかもしれない。

 地球に帰れなくなっちゃって、ママには会えなくなっちゃったけど……でもそれでも元気に生きないとママが悲しんじゃうから。

 一人で何とかしなきゃ、なんて知らないところでだなんて相当無理だし、そもそも私自身が一人で生きられない人間だ。

 でも、手を伸ばしてくださった人達がいた。とても心優しい人達だ。

 ありがとうございます、心から、感謝しています。


「ありがとう、ございます……!」

「改めて、よろしくね、アヤメちゃん」

「よろしく、アヤメちゃん」

「は、はい!」


 不安も少しはあるけれど、でも頑張って生きて、恩返しもしなきゃ。私を拾ってくれて、親切にしてくれて、生きさせてくれる。そんな心優しい皆さんのために。

 よぉし! 異世界で元気に生きるぞぉ!