「わぁ、これ全部贈り物?」

「はい、お嬢様宛に贈られてきたものです」


 とっても大きな花々と何かのプレゼントが贈られてきた。それも、9人から。勿論(もちろん)貴族の方である。私に贈ってきたって事は、これを加工してくれって事なのかな。

 とりあえず、前用意してくれた作業部屋に運んでもらう事に。玄関に置いたままだと邪魔になっちゃうもんね。

 まず、一緒に添えてあった手紙を読んでみよう。マリアが封を切ってくれて、お手紙の便せんを開いた。


「これは、奥様のご友人ですね。ラル侯爵夫人です」


 ラル侯爵夫人。あ、私がこのブランドを立ち上げるきっかけとなった方だ。私の作ったアクセサリーが気に入ったらしく、その感謝の気持ちと応援メッセージが(つづ)られていた。

 そして次のお手紙は、知らないご令嬢からだ。と言っても、私はあまり貴族の方々の事は知らないから当たり前だけど。どれどれ、と中身を拝見してみたけれど……


「私に作ってほしいって事、だよね?」


 ()め言葉もたくさん書いてあるけれど、私専用に作ってほしい(むね)が書かれていて。この贈ってきた花を使って、って事?

 他にも、この国には珍しい花を贈らせていただきました、とか、きっとこの花で作ると見栄えがすると思います、とか。


「作った方が、いいのかな?」

「ダメですよ、そんな事をしてしまったらそれを狙ってもっと贈ってくる人が増えてしまいます」

「あ、そっか」


 でも、困ったぞ。ラル夫人から頂いたものは植木鉢が付いているものだからそのままお庭に移せばいいんだけど、他のものは花束。そう、切られてしまっているのだ。これでは、どんどん枯れてしまう。


「このお花達は加工してもいいよね? このままじゃ可哀想だし」

「でしたら、他の者達も呼んでまいりますね。でも、こんなに沢山ありますから、良い状態のものを選びましょう」

「ううん、それは大丈夫。最短の方法を知ってるから」

「最短?」

「うん、アイロン!」


 この世界には、名前は違うけどアイロンの様なものはある。形も使い方も一緒だから本当に助かった。

 マリアにそれを伝えたら、アイロンを沢山持ってきてくれた。連れてきてくれたメイドさん達はもうやる気満々で。今日までに全部押し花にするぞー! おー! と意気込んでいた。


「こんなに簡単にできるなんて、これなら楽ちんですね」

「まさかアイロンがあるとは思っていなかったから、あってよかった」


 もしなかったら、魔道具にしてみてはいかがですか? と言われていた事だろう。あぁ、恐ろしい。もう既に炊飯器をお願いしてしまっているのにこれ以上お願いするのはちょっとね。

 さっきまで大きかった花束は、テキパキと作業して瞬く間に押し花に大変身。こーんなに小さくなっちゃいました。これは、ありがたく使わせていただきます。

 保存も効くよう魔道具でバッチリ湿気対策もしてあるからゆっくり作っていく予定です。そうしないとお母様とお父様に怒られちゃうもん。



 そして、とある日の朝。


「お父様」

「ん?」


 出勤していくお父様を玄関で捕まえた。小さな箱を持って。どうぞ、と手渡して。開けてもいいかな、と聞かれどうぞと答えた。

 お父様がリボンを解いて開けてみると……


「これは、カフスボタンか」

「はい」


 やぁっと完成したのだ。ずーっと(うらや)ましそうにしてたから、頑張った。いつも着ていく仕事服に合うよう青色にしてみたんだけれど、どうだろう。

 今付けていたカフスボタンを外し、私が作ったものを付けたお父様。


「うん、いいな。気に入ったよ、ありがとう」

「本当ですか! よかったぁ!」


 すっごくニコニコして頭を撫でてくれた。お仕事、頑張ってくださいね。


「アルフレッドには、作ったのか?」

「え?」

「その様子では作っていないようだな。なら自慢しに行こう」

「えぇ!?」


 そんな冗談を言いつつ、行ってきますと出勤していった。いってらっしゃいと手を振りながら、ぽかーんとしてしまった。

 お父様、冗談なんて言うんだぁ……と。



 実は今日、私のブランド【クローバー】の二回目の販売が決まりお店に並ぶことになっている。

 出来上がっていたものをマリアにお願いしてお母様のお店に出品したんだけど、どうなるかな。

 こっそり見に行きたい、とは思ってても難しいよね。


「今日はいかがいたしましょうか?」

「押し花、やろうかなぁ」

「ダメですよ、昨日、一昨日とずーっとお部屋に篭りきりではありませんか。奥様からも止めるよう言われています」

「え”っ」

「ですから、今日はゆっくりお過ごしください」


 外でお茶でもいたしましょう、と他のメイドさんに指示をしていた。なら、聞かなくてもよかったんじゃ? と思いつつお庭に出向いた。


「お団子、お好きですか?」

「え?」


 いつも、【お食事処・なかむら】から買ってきてくれている、テイクアウト和菓子。いつも買ってきてくれて、お茶の時出してくれる。

 食事に和食が出るようになったんだけど、和菓子は難しいらしくて。だからお店に行かないと食べられないのだ。

 因みに今日のは、みたらしとあんこ。串には刺さってないけれど、買ってきたのかとても素敵なお皿に乗っている。


「あまり食べる機会なかったけれど、でも美味しいから好きかも。まぁ、和菓子は全部好きなんだけどね、あはは」

「ふふ、その気持ち分かります」


 ではまた、買ってきましょう。と約束してくれた。


「今日、お母様のお店に私の作ったの並べたでしょ?」

「そうですね、もう完売したのではないでしょうか?」

「え、流石に早いって。あ、でもね、実は楽しみにしてるんだ。前回の売り上げ、貰ったでしょ? 今回も売れて、売上がもらえたら、そのお金で【なかむら】に行きたいなぁって思ってるの」


 実は、お母様に売り上げを全部渡されてしまった。エミリーさんにも手伝ってもらったし、お母様のお店に置かせてもらったから全部貰うのは間違ってるって言ったら、いいのよいいのよ、と押されて全部貰うことになってしまった。

 エミリーさんにはちゃーんとお給料の中に【クローバー】での働き分が追加されているのだとか。

 と言っても、商品の値段は結構高め。こんなに高くていいのかな、とも思ったけどお値段設定はお母様が決めたから何も言わなかった。だから、材料費を引いても手元に残るのは結構な額。驚きである。一体これで何回【なかむら】に行けるだろうか。嬉しいけれど。


「ですが、お嬢様には旦那様からお小遣いが出ているのでは?」

「そうだけど、でも自分が稼いだお金で食べに行きたいの。頑張ったご褒美、みたいな?」

「ふふ、なるほど。それは良い考えだと思いますよ」


 今日、どれくらい売れるかな。前回はすぐ売り切れちゃったって言ってたけど、今回も一緒ってなるわけではない。まぁ、聞かなきゃ分からないけれど……


「でしたら、【なかむら】に行けるようお嬢様も体調を整えなければいけませんね」

「うん!」


 ふふ、楽しみだなぁ。今度は何を食べようかな。

 そして数時間後、もう【クローバー】の商品が完売したとの報告が来るのである。