楽しい時間は過ぎるのが早い。マリアが別邸にいる私達を呼びに来た時、気付いたらもう外が暗くなっていた。

 もうご準備が出来ていますよ、と本邸の食堂に案内してくれた。


「……わぁ!!」


 朝来た食堂が、大変身。豪華に飾り付けがされていた。でも、いつもは大きいテーブルだったのに、なんか小さくなってる? でもテーブルの上にはお箸が並んでる。

 そして……山になっている、プレゼントボックス。


「アヤメちゃぁ~~~ん!」

「誕生日おめでとう!」


 もうナカムラ家の皆さん来てたの!? お出迎え出来ないどころか逆にお出迎えされちゃった感じ?

 周りには、拍手する使用人達とウチの騎士の皆さん。もしかしてこれ全員いる? まさか皆さん大集合しているとは。


「あの、それで、これは……?」

「え? ぜ~んぶプレゼントですよ」

「ぜっ全部!?」


 山のように積まれた、プレゼント。え、これ、まさか……


「僭越ながら、お嬢様にプレゼントをご用意させていただきました」

「日頃の感謝を込めて、どうぞ受け取ってください!」


 これ、屋敷の使用人さん達から……!? けど、もしかしてこれ、全員分!? こんなにあるって事は、そ、そういう事……?

 そして、その山は二つ。こっちは……


「こちらは私達からの贈り物です」


 やっぱりそうですかぁぁぁぁぁ!! ナカムラ家の皆さん、これ持ってき過ぎじゃないですか!? ここに来るまで長旅でしたよね!?

 私、今日でいくつの誕生日プレゼントを貰ったのだろうか。数えたくないかも。


「実は、先代夫人にアヤメさんの誕生日を祝いに行くと伝えたところ、先代夫人が周りの方々に言ってしまいまして。ですから、その方々から預かったものも入ってるんです」

「え”っ、わ、私に……?」

「アヤメさん、スフェーンでとても有名で人気者になっているんですよ!」


 スフェーンで、有名で、人気……私、一度も行った事ないですよね、会った事もないですよね。何で……?

 あ、もしかして、炊飯器とか、和紙で作ったレターセットとか……?


「これは、全部開けるのに一苦労だな」

「あの、本当にありがとうございます。とっても嬉しいです」

「喜んで頂けて良かった、スフェーンの皆にも伝えておきます」

「ありがとうございます」


 果たして、私がスフェーンに行く機会が出来て行った時、どうなってしまうのだろうか。何か、逆に恐ろしい。嬉しいけど。

 取り敢えず、ナカムラ家の方々が用意してくださったプレゼントを開けてみると、わぁ、これはお茶かな? 茶器もあって、とても可愛い。これはすぐに使いたいな。

 それと……え、絵本?


「おい、これお前だろ。ノゾミ」

「だって綺麗でしょ。どう? アヤメさん」

「確かに、絵がとっても綺麗! ありがとう」


 パラパラめくってみても、中に描かれてる絵も綺麗。絵本ってこっちに来てからあまり読んだことなかったんだよね、これは嬉しい。早く読んでみよう。

 他にも、シャンプーなどのお風呂セットだったり、着物だったり。帯留めも可愛いのが沢山!


「わぁ、可愛い!」

「それは俺から」


 タクミからは、リボンのセット。刺繍がされていて、とっても素敵。確かスフェーンだと刺繍がされたドレスが主流だって言ってたような。そういう事か。


「毎日付けるね!」

「あはは、毎日か」

「うん!」


 マリアに頼まなきゃ! こんなに沢山あるから、毎朝選ぶのが楽しみになりそう。明日は何色にしようかな。

 けど、なんか、後ろから強い視線を感じるのは間違い? と思ってチラリと見たら本当だった。お父様とお兄様だ。……怖いな。

 さ、パーティーを始めようか。その一言で用意されていた机の椅子に座った。勿論私はお誕生日席だ。


「今日のメニューは?」

「それはですね……」


 メイドさんが持ってきた台、そこから取って私達の目の前に何かを置いたタクミ。


「……えっ、も、もしかし、て……!!」

「そ」


 置かれたのは、卓上コンロ!! 多分魔道具だと思う。さて、もう皆さんお分かりかな、そう、あれです!!

 卓上コンロに置かれたのは……あれ、平たい、鉄のフライパンみたいな?


「今日はすき焼きです」


 わぁ、嬉しい! お鍋だと思ったらすき焼きだったのね! だから小さめのテーブルが用意されてたのね。

 右側に座るお母様達は、どういうことなのかさっぱり分からない様子。あ、勿論左側に座るナカムラ家の皆さんは分かってるみたい。

 卓上コンロは2つ。人数が多いからかな。タクミとナナミちゃんが具材を入れたりしてくれるらしい。


「今日はこんな感じです。そして、今日のお肉は……極上のものをご用意させていただきました」


 今日のお野菜が綺麗に盛り付けされたお皿と、薄切りにされてお皿に並べられた……高級料亭とかで出てきそうなお肉!!


「こちら、ラファレス肉です」


 ……本当に高級肉だった。A5ランクのお肉とか生まれてこの方一度も食べた事なかったけれど、もう見ただけで美味しいって分かる。

 それとお父様、どうしてニコニコこっちを見てるんですか。もしかしてそれ取り寄せたのお父様ですか。ありがとうございます。

 コンロに火を付け、お鍋が温まった頃に、塊の油を溶かして。そして……お肉を投入!! ん~とっても高級な香りがする~! すき焼きじゃなくてこのまま焼いて食べてもいい気がする。でも今日はすき焼きよね! 大人しく待ちます!!


「さ、どうぞ」


 焼いた後に割下? で煮たお肉を、溶いた生卵にくぐらせて、いただきます!


「ん~~~♡」

「美味しい~♡」


 最高、口の中でとろけちゃったぁ♡ あぁ、最高級のお肉ってこんな味がするのね、最高です。お屋敷で出るお肉も美味しかったからお高い食材だったのだろうけれど、これはもう別ものね。

 さ、次を焼きましょうか。とまたまた良い匂いが香ってきて。はぁ、ご飯もすすみます。

 次はお肉の他にもねぎとか焼き豆腐とかも入るらしい。焼かれていく音がもう心地よく聞こえてくる。


「甘い!」

「焼くと甘味が増すんです」

「ん~♡」


 やばい、どうしよう、もうほっぺた落っこちちゃった。

 お肉は勿論、他のお野菜達も最高に美味しい。割下の味もとっても美味しいし食材によく合ってる。あれ、お兄様、ご飯、なくなってません?


「おかわり、いかがですか?」

「……すまん」


 どれだけお腹空いてたん……お父様もご飯なくなりました。おかわりどうぞ。


「アヤメさんは本当に美味しそうに食べるのですね、見ていてほっこりします」

「でしょう? もう可愛くって仕方ないんです♡」

「ウチの子達ももうちょっと可愛げがあればよかったんですけど……」


 ナカムラ夫人、ご本人達がいるところで言っていいんですか。

 ナカムラ夫人って、結構面白い方だよね。あのお店での会話も面白かったし。でも剣の腕は凄いんでしょ? お父様と戦ったらどうなるんだろう。

 ……いや、やめておいた方が良いかも。ほら、お店のテーブル木端微塵にしちゃったって言ってたから、例えお父様が大丈夫でも周りに被害が及びそう。怖いな。


「……美味ぁ♡」

 
 うん、もうその言葉しか出なかった。

 それより、あの、タクミさん。私のお皿に入れすぎじゃありませんか。お父様達と同じくらい入れてません?

 目で、もっと食えって言ってるのは気のせいですか……?


「〆に玉子丼です」


 少なめの割下に、割って溶いておいた卵を入れて。あぁ、もう匂いでお腹満たされそう。

 盛っておいたご飯の上に乗せて配ってくれた。


「ん~~まぁ♡」


 最初に焼いていたお肉の味も入っていてとっても美味しい。

 やばいな、美味しすぎて気にならなかったけれど、今お腹パンパンになる一歩手前くらい? でも……


「デザートをどうぞ~」


 ……いただきます。ケーキ、美味しそう。

 しかも、プレート? ハッピーバースデーって書いてあるんだけど。これ、食べないでとっておきたい。誰よ、これ書いたの。上手すぎ。


 とりあえず、とっても楽しかったです。最後には魔道具で絵も撮りました。皆さんとってもいい笑顔で、あ、二人だけ真顔だったけど。お兄様とノゾミちゃん。似た者同士だ。性格は正反対だけど。



「やばい、泣きそう」

「え、待て待て堪えて」


 あ、今泣いたらタクミが泣かせたってお父様達何か言いそう。堪えなきゃ。


「あはは、今日楽しかった」

「すき焼き、美味かった?」

「うん、すっごく!」

「じゃ~次はしゃぶしゃぶいくか!」

「しゃぶしゃぶ! やりたいやりたい!」


 こんなに沢山の人達から祝ってもらったの、初めてかもしれない。ママや病院の先生達に祝ってもらったけれど、学校のみんなは私の誕生日すら知らなかったし。

 だから、とても新鮮だし、そもそも誕生日パーティーすら初めて。夕食を大勢で食べるのも、沢山プレゼントを貰うのも。今日貰った量とか貰ったものの凄さは尋常じゃないけれど。


「あ、ねぇねぇ、タクミの誕生日っていつ?」

「俺? 4月の2日」


 ……ん? し、4月、2日って……


「え”っ!? 私がこっちに来た前の日じゃん!!」

「え、マジ……!?」


 知らなかったぁ……誕生日の次の日にこっち来てたって事か……


「え、まさか知らず知らずに妖精から誕プレ貰ってたって事……?」

「あはは、私が誕プレ?」

「最高の?」

「最高の!」


 あはは、妖精さん、ありがとう!

 もしまた会えたら、お礼を言いたいな。


 とっても、とっても素敵な誕生日を過ごせました。

 きっと、これは一生忘れない。