パーティーの次の日。そう、今日は待ちに待った私の誕生日です。


「おはようございます!」

「えぇ、お誕生日おめでとう、アヤメちゃん」

「おめでとう、アヤメ」

「おめでとう」


 ちょっと遅かったかな、もうお母様達は食堂に集まっていた。

 ここに四人揃ってるのはいつぶりだろう。夜揃うのはあるけれど、朝に揃うのは稀だ。お兄様が早朝からお仕事に行く事があるから、これはだいぶ珍しい。


「アヤメちゃんは、別邸は初めてよね?」

「はい、ちらっと見ただけでちゃんと入った事はありません」

「あまり使われていなかったからお掃除だけだったの。じゃあ朝ご飯の後、案内してあげるわね」

「はい!」


 あ、でもプレゼントも開けたい。カリナが贈ってあげるって言ってくれたから気になるんだよね。じゃあマリアに頼んで別邸に持ってきてもらおうかな。

 今日一日お母様達と一緒かぁ、ふふ、楽しみ!


 私達は、食事を済ませた後揃って別邸に向かった。この建物は入口の目の前にある本邸から左斜め後ろに位置している。ちょっと小さいけれど、それでもとっても素敵な建物だ。

 ここは、アドマンス家の先代様方が引退なされた後お使いになられていたらしい。お父様とお母様が結婚した後って事だ。

 中に入ると、本邸とは違った装いが見えてきた。質素? っていうのかも。でも品があるって感じ?


「先代夫人、私の母の好みで模様替えされたままになっているんだ」

「私の、お婆様ですか」

「あぁ」


 そっか、お婆様は緑色が好きだったのかな、所々に緑色のものがある。

 そして、とある部屋に辿り着いた。入ってみると……


「わぁ!」


 プレゼントボックスがいっぱい! 今日届いた誕生日プレゼントはこの部屋に運んでくれたのね。

 でも、多くないですか、これ。

 手前には、よく知ってる人達から贈られてきたプレゼントもある。カリナとか、リアさん、ホリトン姉妹からも!

 でも、待って、それより……その、ピィピィ鳴いてる声が聞こえるんですけど……


「アヤメ」

「……えっ」


 お兄様、今使用人さんから受け取った、その手にあるものは……?


「プレゼント」

「き、昨日、貰いましたよ、ね?」

「もう一つ」


 まじ、ですか……しかもそれ、動物ですよね。大きな鳥かごに入った、鳥? とっても綺麗な白い羽根で、目が赤い。見た事ないかも。


「ほぅ、レティーシャか」

「はい」


 レ、レティーシャ……?


「アヤメ、以前私が連絡手段として〝伝書ラロク〟を勧めたのは覚えているか?」

「はい、今郵便局で3匹仕事をしてもらってます」

「このレティーシャはラロクよりも優秀でね。視覚、聴覚、嗅覚も優れていて一度覚えたら忘れない。だからラロクと同じように連絡手段として騎士団で使われているんだ」


 へぇ、それじゃあ凄くお利口さんって事か。

 ……ん? 待てよ。


「あの、お兄様、この子、プレゼントって言いました……?」

「あぁ」

「……もしかして、この子って騎士団とかでしか使われて、ない?」

「あぁ、そうだな」

「え”っ!?」

「だが、俺が買ったものだから気にしなくていい」


 いやいやいや、騎士団で使われているものなのに私が貰っていいんですか!?


「お前の匂いをきちんと覚えさせれば、迷子になってもすぐに見つけられる」

「え、あ、いえ、でもっ!!」

「レティーシャ、今日からアヤメがお前の主人だ」

「ちょっと待ってくださいっ!!」


 お父様も何とか言っ……いや、ニコニコしないでください。いいんですか、騎士団じゃなくて、私の所で。

 でも、こうなってくるともう引いてはくれないんだよなぁ、お兄様。


「いいじゃないか、この子も可愛いアヤメが主人になって喜ぶよ」

「そうよそうよ。レティーシャはとっても頭がいいから、どこにいても主人のアヤメちゃんを見つけてくれるわ。だから早く仲良くなりましょうね。あんなむさ苦しい所より、アヤメちゃんの所の方がよっぽど居心地がいいわ」


 負けたな、これは。まぁでも、こんなに優秀な子をつけてくれるんだから頼もしいっちゃ頼もしい。あ、じゃあこの前みたいな別荘に行く事になっても、この子を連れて行けばお母様達と簡単に連絡できるかも。それは嬉しいな。
 
 となると、お兄様からのプレゼントというとうさぎやくまのお人形達だったのに、遂には生きている動物をプレゼントされてしまったという事か。来年の誕生日、何をプレゼントしてくれるんだろう。すっごく気になる。けど同時に恐ろしくもある。

 というかお母様、いつもこの国を守ってくださっている騎士団の皆さんの所を、むさ苦しい所って言っちゃっていいんですか。しかもすぐそこに総括様がいらっしゃるのですが。



「アヤメちゃん、レティーシャで満足しちゃってる?」

「え?」

「私達のプレゼント、欲しい?」


 え、昨日素敵なティアラいただきましたよね。もう一つですか。

 するとお父様は、くるくると丸めてリボンで結ばれている紙を出してきた。長さ的に結構大きな紙かも。はい、どうぞ。そう言って渡されて。リボンを解いて、開いてみたら……


「……せ、世界地図……?」


 嫌な予感が……

 開いた世界地図の、とある場所をお父様は指さした。


「私からのプレゼントは、ここだ」

「……」


 絶句。

 もうそれしかなかった。

 え、し、島ぁぁぁぁ!?


「アドマンス家が所有している一つの島でね。特別にプレゼントしよう」

「え、あ、えぇ!?」

「私からのプレゼントは、船よ♪」

「え”っ」

「アドマンス領の港にもう準備してあるから、いつでも乗ってその島に遊びに行ってもいいわよ。あ、私達4人で家族旅行なんてどう?」


 ……私は、何を言っていいのか全く分からなくなってしまった。その後見せてきた、島の権利書と、船の絵。ちょっと待ってください、船、結構デカくないですか。豪華客船、とまでは言わないけれど、お金持ちさんが所有してる船? みたいな。

 なんか、だいぶ恐ろしく感じてしまった。

 騎士団で使われている伝書レティーシャに、島に、船。

 貴族のご令嬢とかって、誕生日プレゼントって何貰ってるんだろう。もしかして、こんな感じ? いや、もしかしたらアドマンス家がおかしいんじゃ……?