「ずるーい! お父様!」

「はは、とても美味しかったよ」

「もうっ、私はエバニス料理すら食べた事ないのよ? フレッドも食べたのに私だけ?」

「明日はどうだ?」

「行く!」


 お仕事から帰ってきたお父様を捕まえて今日のお昼ご飯を聞いたのだ。王様に依頼されてタクミ達がお昼ご飯を作ったんでしょ? 食べたかったなぁ。


「お弁当だったんですよね?」

「あぁ、二種類あってね。炊き込みご飯の方を選んだんだ。とても美味しかったよ」


 い~なぁ~、私も食べたかった。あ、でも私は【なかむら】でノゾミさんが作ったオムライス食べたけどね。美味しかったなぁ~。


「それで、大丈夫でしたか?」

「陛下方の食事会も何事もなく終わったと聞いたよ。だから、安心しなさい」


 確か、陛下と王妃殿下と王太子殿下とクララ様の食事会だったっけ。クララ様大丈夫だったかな、王妃殿下とあまり仲が良くないんだよね。あとでお手紙を送ってみよう。


「他にも、何か言われないですよね? 今回の事だって、どんな意図があって頼んだのか……」

「それは大丈夫だよ、アヤメ。むしろご理解くださったようでこちらは安心だ。さすが、この大国を治めているお方だよ」

「え?」


 安心? 理解って?


「今回の噂の件、きっと王妃殿下は正気ではなかっただろう。だが陛下は、事の重大さに気付いておられた。このアドマンス家を敵に回すような事態になっているという事にね」

「え、敵、ですか……?」

「そりゃそうさ、ウチの大事なアヤメの心を踏みにじったんだから当たり前の事だろう。まぁ、幸い大事にはならなかったが、もう次はない。また何かを起こした際には無傷でいられる保証は無くなったという事だ。だから、その償いとして今回このような機会を与えたのだろう。
 陛下は、彼らの料理の味を知っておられる。少し難しくはあったが成功させるに違いないと確信していたはずだ。今回で王城の誰もがスフェーン料理、あの子達の料理を食し、そして美味しかったと社交界に広めてくれるはず。今社交界で言われているタクミ君の評価も上がる事だろう」


 そ、そっか。今結構悪く言われてるもんね。ご機嫌取りだとか何だとかって。でもそれがなくなるなら嬉しいな。

 でも、あの、怖い事言わないでください。次はない、とか、無傷でいられない、とか。


「だが、王家を守る私達の剣が何時かそちらに向けられるかもしれないという事は変わらないがな」


 こ、こ、怖いよぉ~~~!!


 後日、カリナから教えてもらった。

 王妃殿下が体調不良で後宮から出てこなくなったという事を。

 それをお母様に聞くと、表向きは体調不良、だけど本当は陛下から謹慎処分を言い渡されたらしいと教えてくれた。ここまでする? とも思ったけれど、また何かしでかしてくるのは嫌だから、まぁ黙っておこう。

 タクミ達が王城の皆さんのお昼ご飯を作った事は瞬く間に社交界に広まったみたい。あの日お父様が言っていた通り、皆とっても美味しかったと絶賛していたようで。それと同時にタクミの悪口は消え【なかむら】の良い噂に変わっていた。

 あ、そうそう、あともう一つ。社交界で噂になっている事がもう一つあって。新しい洗濯機の話も今社交界で話題になってるみたい。数週間前、王宮から依頼が来たの。大きな洗濯機を作ってくれと。

 小さい家庭用のものだけの販売だったんだけど、ウチで使ってるのと同じものを購入していただいた。そしたら、他の侯爵家の方々も購入されていき。あ、あと【なかむら】の方にもあるの。

 着々と売れてきてるな~なんて呑気な事を考えていたら、貴族の皆様が大きい洗濯機をどんどん購入なされていきまして。

 それが社交界に広まり、屋敷に洗濯機がないのは使用人にケチな家とまで言われるようになってしまったのである。

 うわぁ、ここまで言いますか。と思ったけれど、売り上げが凄いから逆に困ってる。ロレンさん、頑張って。


「お久しぶりでございます、アドマンス公爵」

「あぁ、久しぶりだな」


 そして今日、いらっしゃいました。タクミ達の、ご両親さん達が。


「婚約の件は、本当にありがとうございます。まさかアヤメ嬢がウチのタクミを選んでくださるとは」

「いえ、こちらこそ。タクミさんとの結婚を許可してくださりありがとうございます」


 何だかんだと雑談が始まり、とは言っても結婚云々はまだまだ先の話だからとおしまいになった。

 その後、子供達は子供達でお話してきなさい、とお庭に出されてしまい。タクミ達4兄妹と、私とお兄様で庭に行かされてしまったのだ。

 ……お兄様も、だ。さっきからずぅ~っと無表情な。


「これから兄妹になるんですから、そんなに気を遣うのはやめましょうか」

「あ、はい」


 気軽に呼ばせてと言われ、私もノゾミちゃんとマサオミさんと呼ぶことにした。ノゾミちゃんは私と同い年、マサオミさんはお兄様の……二つ下? タクミの4つ上って言ってたから23? お兄様が25だからそうだよね。


「お兄様?」

「何でもない」


 ん? 無表情、だと思ったんだけど……何か、拗ねてません? いや、見間違い?

 いや、見間違いじゃないな。そう思い、お茶でもしませんか、とマリアに用意をさせた。

 とりあえず、お兄様には【なかむら】のデザートを与えるべし。大体はこれで何とかなる。因みに言うと、今日のおやつは白玉団子。お兄様の大好きなあんこのトッピングである。もうこれでばっちりでしょ。

 まぁ、ナカムラ家の皆さんは食べ飽きたものではあるかもしれないけれど、なんかすみません。

 言わずもがな、お兄様は顔には出さなかったけれど白玉団子に夢中となった。そのタイミングで、皆さんと色々な話に花を咲かせたのだ。

 やりますね、お嬢様。と言いたそうな顔をしているマリアが見えたけれど、これくらいのスキルがなければお兄様とのコミュニケーションは成立させる事は出来ませんよ。



「ねぇねぇアヤメちゃん、楽しかった? どんな感じだった?」

「え?」


 ナカムラ家の皆さんが帰ってからのお母様の食いつき。きっとこれはお兄様の事を聞いてるんだろうなぁ、とすぐに分かってしまった。お兄様は歳の近い令嬢や令息達とお茶をすることはほぼなかったみたいだから、気になるのは分かる。

 だけど、白玉団子、美味しそうに食べてましたよ。とだけ言っておいた。というか、それしか言えなかった。

 また今度、ナカムラ兄妹とお茶をしたいな。あぁ、勿論お兄様も一緒よ。何回かお茶すれば仲良くなる、かもしれない、うん。