王族の結婚式は、神殿の本殿で行われる。別殿は一般の者達が祈りを捧げる場、本殿は神官様だけが立ち入れる場所となっているが、こういった王族の結婚式などの行事の時だけ特別に入る事を許されている。

 そして今日、この国の王族であるミレイア・ラミス・ラスティウス第一王女殿下とオリコット王国王太子のエドガルド・シス・ファラスレス殿下の結婚式が行われる。

 だから私とお母様は神殿に向かって馬車を走らせている。お父様とお兄様は早朝から出かけていったから神殿で会う事になる。


「お母様達も神殿で式を挙げたんですよね?」

「そうよ、ここには何度も来てるの」


 お母様は元王女、そしてお父様はアドマンス家の人。王族の人達の結婚式などには何度も呼ばれた事だろうからよく知ってるって事だよね。

 ほら、見えたわよ。そう言われて馬車の外を覗くと、とても大きな建物が見えた。

 馬車が停まり、降りて神殿を見た。最初の感想は、何だかローマの巨大遺跡みたい。凄く天井の高い家のような建物のようではあるんだけれど、石のようなもので作られていて、大きな柱が何本も立っている。

 見た目も他の普通の建物とは明らかに違うけれど、目の前に立った時に何かオーラのようなものを感じる。

 ここ、私入っていいのかな……

 あ、フェレール団長発見。今日はカーネリアン側は王族とアドマンス家の人達と高位貴族の当主達が参加するんだっけ。フェレール団長は侯爵様だもんね。当たり前か。

 この前のサミットの装いとは違うから、ここには騎士団団長としてではなくフェレール侯爵として来てるって事だよね。

 入っていく皆さんに続いて、私達も建物の中に入った。

 やっぱり、外から見た通り天井が高い。首が痛くなりそうなくらいだ。でも、壁には色々と彫刻がされている。とても繊細で細かい。一体この建物を建てるのにどれくらいの年月をかけたのだろう。

 真っ直ぐ進んでいくと、とても明るい場所に出た。とても広い部屋で、天井が、ガラスなのかな? とにかく天上から降ってくる陽の光でこの部屋が照らされている。とても神秘的だ。


「あ、お父様!」


「アヤメ、ティア」


 もう既に会場入りをしていたみたい。お父様と、隣にはお兄様もいて。騎士団の方々とお話をしていたのかな。そんな感じの制服を着た人達がいて。

 今日はきっと騎士団の方々は大忙しだ。だって結婚式よ? こんな大イベントなんだから警備とか大変だと思う。


「二人共、ドレス似合っているよ」

「ありがとうございます、お父様。お父様とお兄様もとってもカッコいいです!」

「はは、ありがとう」


 あ、袖に付いているそのカフスボタン私が作ったものですよね。

 実は、デビュタントの時以前私がプレゼントしたカフスボタンを付けていたのを見かけて。それ制服に付けていませんでしたか? と思いつつ、やんわりと他のカフスボタンは新調しないんですかと聞いた時には絶対しないと言われてしまった。

 でも、制服用とか私服用とかパーティー用とかって色々あったほうがいいんじゃないかと思ってその後作ってみた。言わずもがな、お二人は本当に喜んでくれた。お兄様も顔が和らいでいた。

 結構、カフスボタンって作るの楽しいのよね。いつも作っている女性用とは違って、男性が付けてもいいデザインを試行錯誤するのがとても面白い。出来上がった時の達成感もあるしね。

 神殿の会場に用意された席。私達は王族の方々が座る一番前から一つ後ろ。この席順は、階級によって決められているのね。

 真ん中の道、所謂バージンロードを挟んで向こう側に並ぶ席。そちらは新郎の出身国であるオリコット王国の偉い方々が集まっている。外交官と、あと王太子殿下の妹君に当たる第一王女殿下もご出席されるのだとか。

 今回の様な王族、皇族での国際結婚は、新郎の国と新婦の国で二回結婚式が行われる。

 こちらではオリコット王国の王陛下方は参加しないけれど、オリコット王国で行われる式には参加する。対する今日の式にはカーネリアン王国王陛下方は参加するけれどオリコット王国での式には参加しない。色々と仕来りがあるから大変だね。しかも王族だし。


「ほら、そろそろ始まるわよ」

「あ……」


 お母様の言葉通り、式が始まった。

 フェリアス王立学院でお会いした王太子殿下。そして、次に入場してきたミレイア王女殿下。

 殿下のドレスは純白。とても、見惚れるほどに綺麗だった。


「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、互いを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」

「誓います」



 お二人は、顔を合わせて、微笑んでいた。

 ちょっと年の差もあるけれど、でもそんな事は関係ないんじゃないかな。

 これからミレイア王女殿下は隣国に嫁ぐ事になる。でも、隣国とは言っても結構遠い所にある。これから新しい場所で生活していく事になる。

 幸せになってくださるといいな。


 最後には、祝福の拍手が神殿に響いた。
 


「本日は誠におめでとうございます、王太子殿下、王太子妃殿下」

「ありがとうございます、アドマンス公爵。皆さんも」


 うわぁ、とっても綺麗なドレス。遠くから見ても綺麗だったのに、こうして近くで見てもとても魅力的なドレスだ。天上から差す陽の光が当たるとキラキラと光って見える。


「隣国でも、身体に気を付けてくださいね」

「ありがとうございます、叔母様」


 あ、そっか。お母様はミレイア王太子妃殿下の叔母に当たるんだっけ。じゃあ私とは従妹か。改めてそう思うと、なんか怖いな。

 では他の方々にもご挨拶を、と離れていった。

 その後、お父様とお兄様は警備の事で話をしに行って、お母様はオリコット王国の方に声をかけられて。そして私が少し一人になった時、声をかける方が一人いたのだ。


「今日は来てくれてありがとう」


 声をかけてきたのは、あろうことか王妃様だった。


「ご招待いただけて光栄です」

「ふふ、アヤメさんはミレイアの従妹なんですもの、当たり前よ」


 トリストン殿下との事があったから、ちょっと何とお話をしたらいいのか分からない。顔に出ないよう頑張ってはいるけれど。


「アヤメさんはここに来るのは初めてよね。とっても素敵な神殿でしょ」

「はい、とても神秘的で何か大きなオーラを感じられそうです」

「私もそう思うわ。あ、アヤメさんは、ここで結婚式したい?」

「え、あ、いえ」


 待て待て待て、ここで結婚式? ここは王族の方のみ結婚式を挙げることのできる場所なんじゃ……?

 王族の中にいる未婚の男性はトリストン王太子殿下のみ。……殿下と結婚しろ、と遠回しに、言われてる?


「でも、ここをとても気に入ってるみたいだけれど。ここはとても歴史のある、神聖な場所だわ。きっとここで結婚式を挙げたら一生の思い出になると思うの」

「わ、私はアドマンス公爵家の者ですから、違う場所で結婚式を挙げるのが普通だと思います」

「そう? でも……」

「あっ、王太子妃殿下の方に行かなければならないのでは? では、結婚披露宴パーティーでまたお会いしましょう」

「そうね、じゃあまたね」


 ……心臓飛び出ると思った。頑張った、私。とりあえず安全地帯のお母様達の所にすぐに行こう。うん。



 結婚式が終わると次は結婚パレードが始まる。それからパーティーが続いてともう大忙しだ。しかもこれは一日では終わらない。貴族達の挨拶にと3日。そしてその後オリコット王国に王太子殿下と共に向かう事となるのだ。いやぁ、王族は大変だね、うん。

 まぁ他人事だからそう言えるんだけどさ。


「あらやだもうアヤメちゃんはウチのドレスを何でも着こなしちゃうんだから~! とっても素敵よ~!」

「ドレス、ありがとうございました」

「いいのよいいのよ~、むしろこっちがお礼を言わなきゃよ~。アヤメちゃんがウチのドレスを着てくれるからこっちも助かってるもの~」


 いつもの事で、ドレスはリアさんのお店が作ったものです。というか、他の洋服着た事ない? あ、着物以外で。うん、ないかも。

 今日は、式用のドレスの後、パーティー用のドレスに着替える。そちらもリアさんに作って頂いたものだ。自信作よ! と言われたけれど、あんなに素敵なドレスを私が着てもいいのかと毎回思ってしまう。

 という事で、オリコット王国の方々に挨拶を終えるとお着替えの為に一旦お屋敷に帰ったのだった。