今日は屋敷にお客様がいらっしゃっています。


「遅くなってしまって申し訳……」


「アヤメ嬢……!!」

「助けてくださいぃぃぃ!!」


 ……ん?

 プリシラ・ホリトン嬢と、セリア・ホリトン嬢です。……顔を真っ青にした。

 まずは落ち着いて、と新しい紅茶を用意した。


「それで、何があったのですか?」

「その……実は、王太子殿下の事でご相談させていただきたくて……」


 ……ん? 殿下? もしや、何か進展でもあった? やるな、殿下。お母様に尻叩かれただけある。


「数日前に、お茶会に参加したんです。王城で開かれたのですが、実は私の隣のご令嬢が間違ってコップを倒してしまって、私のドレスにかかってしまったんです。
 幸い中身はお水でしたのでシミになる事は無かったのですが、だいぶかかって濡れてしまったのでそこでお暇したのです。
 それで……帰る際に、王太子殿下と偶然お会いして、濡れたドレスの事をお聞きになられたのです。手違いで濡れてしまったのだとお答えしたら、ハンカチを渡して下さって……」


 おぉ、殿下やりますな。偶然ではあったけれど、ハンカチを渡すだなんて殿下! 進歩していらしたようで感激です!


「ハンカチをどうやってお返しすればいいのか分からなくて……」

「殿下と親しいお関係でいらっしゃるアヤメ嬢に何かアドバイスをと思ってこちらに伺ったのです。何かいい方法はあるでしょうか」

「な、なるほど。でも、最近殿下は社交界に顔をお出ししているとお聞きしたのですが」

「私達は子爵家の者です。下位貴族の令嬢が気安く近づいていい様なお方ではございません」


 そっか、私普通にお手紙交換してるけど、殿下はこの国の王族。他の人達にとっては雲の上の人だ。そう思ってしまうのも無理はないよね。

 ……いっその事、ここに殿下を呼ぶか? あ、でもお忙しい方だから無理か。

 う~ん、どうしたらいいのかな。難しい問題だよね、これって。


「そうですね……ハンカチはご自身でお返しした方がいいと思います。ですから、私がお茶会を開きましょうか。そのまま殿下にお会いするには社交界で噂になってしまいますからね」

「そう、ですよね……最近、殿下とパーティーなどでお会いする事が多くなったのです。ご挨拶の際にも、色々とお声をかけて下さって。なので、ちゃんと自分で感謝の気持ちを伝えたいと思っています」

「はい、その意気です!」


 果たして、これが恋愛方向に進むのだろうか。私としてはいい方向に進んでいってほしい所だけれど。恋のキューピットになるのはだいぶ難しい。


「あ、そういえばプリシラ嬢。刺繍はお得意ですか?」

「え? はい、まぁ、嗜むくらいですが」

「でしたら、お礼の品を用意するのはいかがでしょうか」

「お礼の品……も、もしかして……!」

「はい、刺繍の入ったハンカチです!」


 確か、殿下は黄色のティティミィという花がお好きでしたよ、と教えてあげた。隣に座っているセリア嬢も、頑張ってお姉ちゃん! と応援してあげていて。はい、頑張ります! と言ってくれた。

 では近い内に手紙を送りますね、と二人に伝えて。本当にありがとうございます、と二人は帰っていった。


「さ、早く殿下にお手紙を書かなきゃ!」


 殿下、一体どんな顔をするだろうか。でも手紙だから拝見出来なくて残念。

 ふふ、どうなるかなぁ~。と思った矢先、今度は違う方が屋敷に訪れた。


「今度は殿下ですか」

「昨日の手紙は、誠か?」

「あ、はは。殿下、戸惑い過ぎですよ」

「すまん、つい……」


 殿下、もう恋する乙女じゃないですか。昨日の今日でまさかこっちに来るとは。

 仕方なく、応接室にご案内して人払いをした。


「お手紙の通り、プリシラ嬢がお礼をしたいらしいので、僭越ながら私がお茶会を開かせていただいても宜しいでしょうか」

「あぁ、よろしく頼む。日時もこちらが合わせる、何時でもいい」


 殿下、気合入りすぎ。

 さて、お茶会とは言ってもこの屋敷では開けないな。参加者も考えて選ばないと。


「殿下、今は社交界シーズンで貴族の方々は王城の出入りが多くなっていますよね」

「あぁ、ほぼ毎日王城の庭園で茶会を開く者達がいるな」

「でしたら、あまり人の出入りがない場所ってありますか?」

「人の出入り? あぁ、なるほど」


 そうして話を進めていき作戦が立てられた。上手くいくといいな。



 プリシラ嬢のプレゼントが完成し、庭園でのお茶会の場所も確保、そして参加者への招待状も送り、王城の庭園でのお茶会を開くことが出来た。

 王城に行く際、お母様から「ファイト!」という言葉を貰ったけれど、それは私じゃなくて殿下に向けなければいけない言葉では? と思ってしまった。


「お久しぶりですね、プリシラ嬢、セリア嬢」

「こちらこそ、カリナ嬢」


 そう、一番仲の良いカリナを呼んだのだ。あ、殿下の事は教えてない。ただ、プリシラ嬢がお会いしたい方がいるから協力してほしいとお願いした所快く、というかぜひ私に協力させてと言われたのだ。


「そろそろですかね、行ってらっしゃい、プリシラ嬢」

「い、行ってきます!」


 ガチガキで緊張気味のプリシラ嬢を東屋から見送った。

 プリシラ嬢はここから一番近い温室に向かった。そして、殿下もそろそろ温室に向かったと思う。

 護衛の目を掻い潜り温室で遊んだことがあるそうだ。貴族の者達に見つからないようにして温室に行く事はもう朝飯前だそう。だからそこでお礼の品を貰いに行く事になっている。


「上手くいくといいね~」

「まさかプリシラ嬢に想い人がいたとは」

「違います~、私達は何時だって公子様一筋なんです~」


 殿下、頑張って。うん。応援してます。


「そういえば、そろそろ王女殿下の結婚式ですね」

「そうね、アヤメは式にも出るんでしょ?」

「うん、一応アドマンス家だから」


 結婚式には、王族の方々、高位貴族の当主、そして王家の血が流れているアドマンス家の人達が参加する事になっている。あと、相手のオリコット王国の人達ね。

 その後に行われる結婚披露宴パーティーには多くの貴族達が参加する事になっている。私のデビュタントで使われた会場、キュリストホールで行われるみたい。


「招待状が【フラワーメール】で送られてきて驚いちゃった。あのレターセットと切手初めて見たんだけど、もしかして特別に作ったの?」

「うん、王女殿下から依頼を受けて作らせていただいたの。サミットのパーティーみたいに、販売はしないよ」

「勿体ないなぁ、あ、でも記念切手は作るんでしょ?」

「うん、もう出来上がってるから楽しみにしててね」

「私絶対に購入します!」

「ふふ、ありがとうございます」


 1時間後、ニコニコしたプリシラ嬢が戻ってきた。ちゃんと渡せたようだ。


 けど、その後殿下から届いた手紙には、ハンカチをプレゼントしてくれて嬉しかった事と、ちょっとだけ会話は出来たけれど途中で逃げられてしまった事も書かれていた。折角の二人きりの時間だったのに。1時間もかかってたから期待してたのにぃ。もう、殿下ったら。男でしょ!!

 また今度何かチャンスを作って差し上げられたらなぁ、と思ってしまったのだった。