「もうこれ以上俺にかまうな」

 それだけ言うと、柳瀬はあたしに背を向け歩き出した。

「ねえ、柳瀬!」

 気づいたら、大声で柳瀬のことを呼び止めていた。

 柳瀬が、無言で首だけあたしの方に向ける。

「……どうやったら柳瀬みたいになれるの?」

「は?」

 柳瀬が『なにが言いたいんだ?』って顔で、眉間にシワを寄せる。

「あたしも、柳瀬くらいがんばりたい。精一杯やって、悔しくて泣けるくらいやってみたい」

「……俺のこと、バカにしてる?」

「してないってば。そうじゃなくて、そういう柳瀬がカッ……じゃなくて……そう! 尊敬してるから」


 今は、恋愛なんかしてる余裕はない。

 ちゃんと悔し涙が流せるくらい、がんばってがんばって。

 それからじゃなきゃ……こんな負けたままじゃ、全然対等じゃないし。


 きゅっと両方の拳を握り締める。