ランニングから戻ってきた柳瀬が、汗を拭いながら目の前を通りすぎていく。


 パーッ、パッパララッパッパララッパッパッパッパーッ!


 あたしが高らかにファンファーレを吹き鳴らすと、ピタリと足を止める柳瀬。

 ぐるりと怖い顔をあたしに向けると、そのまま大股で近づいてくる。


「ちょ、な、なによ。なんか文句でもある?」

 思わずたじろいで、一歩後ずさりする。

「俺にいったいなんの恨みがある。いいかげんにしろ」

 柳瀬が地を這うような低い声を出す。

 今までに見たことがないくらい、めちゃくちゃ怒ってる。

「ご、ごめんなさい。怒らせるつもりじゃなかったの……」

 じわりと目尻に涙が滲む。


 柳瀬を目の前にして、やっとわかった。

 あたし、一生懸命な柳瀬を応援したいんだって。

 いじって怒らせたかったわけじゃない。

 あたしからの「がんばれ!」を、素直に受け取って欲しかっただけだったんだって。

 だって、誰よりも真剣にがんばる柳瀬は、誰よりもカッコいいから。


 ……ほんと、亜沙美の言う通りだ。