「あんたさあ、小学生男子みたいなこと、いいかげんやめたら?」

 そんなあたしを毎日見ている、同じトランペットパートの亜沙美が、いいかげん呆れたって顔をする。

「なにそれ。どういう意味?」

 こてんと首をかしげるあたしを見て、亜沙美が盛大なため息をつく。

「好意をどう表現したらいいかわからなくて、好きな女子のことを思わずからかっちゃう小学生男子。今の由奈、完全にそれじゃん」

「はあ⁉ そんなんじゃないし。あたしはただ、あのポーカーフェイスの化けの皮を剥がしてやりたいと思ってるだけで……」

「ふうん。そーなんだー」

「あ、あたしがあんな不愛想で無表情のヤツのこと、好きになるわけないじゃん。冗談でもやめてよね」

 ほっぺたを膨らまして亜沙美に文句を言いながら、あの日、アイツが流していた熱い涙を思い出す。


 あれは、真剣になにかに打ち込んだ人間にしか流せない涙だった。

 あんなふうになれることが……心底うらやましい。

 あたしだって毎日一生懸命トランペットの練習はしてるけど、夏のコンクールのとき、あんな涙は流せなかった。

 先輩たちだって、誰一人流してなかった。

 アイツに全部負けてるような気がして、なんだか悔しい。

 そんで、なんだかモヤモヤしてムカムカして……だから毎日一生懸命なアイツのことを、ついいじりたくなっちゃうんだよ。

 それだけのこと。