今日は、夏の高校野球県予選三回戦。

 吹奏楽部のあたしたちは、野球部の応援に駆り出された。


 正直、コンクール間近のこの時期の応援って、結構キツいんだよね。

 だって、コンクール曲以外の練習までしなくちゃいけないんだもん。

 でも、それも今日で終わり。明日からはコンクール曲に集中できる。


 お手洗いに行って、みんなのところへ戻る途中、すんっ、すんっ、と鼻をすするような音が聞こえてくる。

 どこかで迷子の子どもでも泣いてる?

 あたりをキョロキョロと見回しながら進んでいくと、通路を脇道に少しそれたところで、誰かが壁に頭をつけて泣いていた。


 あのユニフォームって……うちの学校の野球部じゃない?

 三年生、かなぁ。きっと三年間一生懸命打ち込んできたんだろうな。


 視線を感じたのか、その人がふとあたし——冴木由奈の方を見た。


「あ」


 気まず。

 あたしの隣の席の、柳瀬陸玖だ。

 いつもポーカーフェイスで、なにを考えているのかわからない人っていうイメージだったのに。

 ふうん。いつもクールぶってるアイツが、試合に負けて泣いたりするんだ。

 っていうか、あたしらまだ二年じゃん。

 まだ来年もあるのに。