「——だったら。ずっと俺だけ見てて。来年は、絶対勝つから」

 柳瀬が淡々と言う。

「は⁉ あんた、なに言って…………」


 突然なに言ってんの?

 そんなの……。


「い、言われなくたって、あたしは柳瀬のことしか見てないし。ずっと応援するし。それに、あたしだって、来年のコンクールはもっともっと上目指してるし、絶対県大会出てやるって思ってるし、柳瀬なんかに負けないし!」

 最後まで一気にまくし立てると、はあはあと荒い息をする。

 そんなあたしのことを黙って見つめていた柳瀬が、ほんの少し口角を上げ、「そ」と短く言うと、グラウンドに向かって走り出す。

 だからあたしは、『がんばれ!』の言葉の代わりに、『パーッ!』と大きくトランペットを吹き鳴らした。

「だから、うるさいって言ってるだろ」

 柳瀬が足を止め、イヤそうな顔であたしの方を向く。

「柳瀬が応援しろって言ったんでしょ⁉」

 あたしが怒鳴ると、ふっと小さく笑う声がした。


 はあ⁉ 今のって笑うとこあった?

 なんかもう……ほんとムカつく!


 もうっ。こうなったらアイツがどんだけ嫌がったって、ずっとずっと嫌がらせしてやるんだから。

 そんで、ずっとずっと二人で一緒に上を目指すんだから。



(了)