「はーい田中さん、買ってきたよー。これでいける?」

「……いけるけどさ、なんでなの?」

「それは田中さんがゲームに全敗したからです」


はい、どうぞ。と差し出されたのは牛乳で、現在真帆はキッチンに立っていた。
部屋の持ち主であるはずの田辺は、コンビニから帰ってくるなりさっさとカウンターの向こう側へ。


「負けた時のことなんて、始める時は言ってなかったじゃん」

「勝ったら景品があるんだよ?だったら負けた時の罰ゲームもないとね」


そんな理屈は知らない。


「ボウルはシンク下にしまってあるやつ適当に使って。泡だて器はないんだけど、箸とかでなんとか頑張って!」


にこにこ顔の田辺に見つめられながら、真帆は渋々しゃがみ込んでシンク下の収納からボウルを取り出す。
ガラス製のボウルは大きさ違いが三組セットになっていて、なぜ泡だて器もないのにボウルが充実しているのか疑問が湧く。


「それね、上司から貰ったやつなんだけど、重いから普段使いしにくいんだよね。そもそも俺、ガラスのボウル使うような料理なんて作らないし」


じゃあなんで貰ったんだという疑問は、心の中だけに留めておく。