薄っすらと涙まで浮かべて痛がる真帆を、あろうことか田辺はお腹を抱えて笑うのだから、これは人でなしと呼んで差し支えないはずだ。


「まったく、せっかくの雰囲気がぶち壊しじゃん。どうしてくれるの?田中さん」


なんて言いながら、田辺はまだ笑っている。


「……知らないよ。ていうか田辺くん、さすがに笑い過ぎでは?」


この人でなし、という言葉はぐっと飲み込んで、心の中だけでぶつけておく。


「だって田中さんが笑かしにくるから」

「笑かしにいったわけじゃない」


そのあともしばらく笑い続けていた人でなし、もとい田辺は、ようやく笑いを収めたところで俯くと、深く息を吐いてから、よしっと呟いて顔を上げた。


「さて田中さん、落ち着いたところで続きをしようか」


雰囲気を変えるように怪しく笑う田辺と、怪訝な顔の真帆。


「……続き、とは?」


問い返す真帆に、田辺は笑顔でまた距離を詰める。


「田中さんが雰囲気をぶち壊す前からの、続き。知りたいんでしょ?昨日の夜、俺と何があったのか。せっかくだから再現してあげるよ」