仕事で失敗するといつも、慰めながら抱きしめてくれた彼は、その広い胸に顔を埋めれば、バターや砂糖の甘い香りと、時々タバコの匂いがした。
だが今真帆を抱きしめているこの男からは、先ほど洗面所で嗅いだタオルと同じ柔軟剤の匂いがする。真帆を安心させてくれたあの香りとは、違う。

それなのに、加減された力の入れ方とか、広い胸とか、そんな些細な共通点が、真帆がしまい込んだものをこじ開けて、引っ張り出そうとしてくる。
ダメだ、泣いてしまう。嫌だ、泣きたくない。
咄嗟に手を動かして、真帆は服の上から思いっきり、渾身の力でもって、田辺の横腹辺りの肉を摘まんで捻り上げた。


「いいい!!!?ちょっ、たな、田中さん!いたっ、痛い痛い!!わかった!わかったから!!いででででで」

「あっ、ごめんつい……」


泣きそうな気持ちと泣きたくない気持ちが激しくぶつかり過ぎて、予想以上に力が入ってしまっていたらしい。
しかも、田辺が真帆の体に回していた腕を離してもなお、繋いでいた手さえ離してもまだ、真帆はしばらく田辺をつねり続けてしまったので、思わず謝りながら手を離す。