「……田辺くんのせいでいらんこと思い出した」


なぜ今更になってこんな寂しいことを思い出さなければいけないのか。全ては目の前のこの男、田辺のせいだ。


「え、なになに?田中さんのちょっぴり恥ずかしい思い出話?聞きたい聞きたい!」

「そうであったとしても、誰が話すか!」


そこでテンションが上がるだなんて、いい性格をしている。


「あのさ、ほんともういつになったら離してくれるの。腕も痛くなってきたんですけど」

「それはいけないね。じゃあはい、こっち来て」


繋いでいない方の腕を横に広げ、田辺が明らかなハグの体勢で真帆を呼ぶ。


「……行きませんけど。離せって言ってるの」

「だって離したら逃げるでしょ。今だって逃げてるのに」

「当たり前でしょ」


なにせ、これ以上ここに居ても時間の無駄だ。田辺は何も教えてくれないし、別に昨夜の記憶が蘇るわけでもないし。


「俺ともっと親睦を深めようよって言ってるのにー。その必要性だって説明したのにー」

「…………」


確かに、その必要性はよくわかった。だが、親睦を深める方法は何もスキンシップでなくていいはずだ。