田中 真帆は、同じ職場に付き合っている人がいた。
三つ年上の先輩で、新卒で入社した真帆の教育係だった人で、お菓子とパンとカフェコーナーも併設された店の、製菓部門を取り仕切っていた人。

好きになったのはたぶん真帆の方が先だったけれど、告白してくれたのは彼の方。
仕事でも彼の役に立ちたいと一生懸命努力したし、何気ない会話の中でコーヒーが好きだと知ったら、すぐさま道具と教本を買って勉強し、より美味しいものを飲んでもらいたいとスクールにも通った。

本当に好きだった。大好きだった。
また、同じ製菓部門で働く者として、彼は憧れでもあった。

彼の作る新作は店に出せばすぐに話題になって飛ぶように売れ、店の売り上げにも大きく貢献していたし、後輩の指導にも熱心だった。
オーナーからも期待され、部門を問わず店中の信頼と憧れを一挙に集め、それでいて(おご)ったところのない人だった。

彼と付き合えていることが真帆の幸せで、それは仕事を頑張るモチベーションにも繋がっていた。
けれどそんな幸せは、ある日突然崩れ去る――。