「で、その坂本は、店長ほどの苦労話が出てこなくってさ。開きたいなって思ったから開いたって、なんか軽いんだよ。つまり、苦労するかどうかは時代ってこと?」

「……違うと思うけど」


時代で大きく変わることもあるので、必ずしも無関係だとは言えないけれど、それだけが理由では絶対にないと思う。


「まあつまりそういうことだからさ、田中さんも開いてみたら?お菓子とコーヒーの店」

「……なにが、“つまりそういうこと”なのよ。他人事だからって適当なこと言わないで」

「ええー、俺真面目に提案してるのに。田中さんが店開いたら、俺常連になるから。あっ、それより、夫婦で共同経営しちゃう?」


笑顔で田辺が口にした言葉に、カップを握る真帆の手に力が入る。


「田中さん、急に顔怖いけどどうしたの?」


どうやら、眉間の方にも力が入っていたらしい。


「……別に。私、これ飲んだら本当に帰るから」


これ以上ここにいると、地元に戻るにあたって心の奥の奥の奥にしまい込んだはずのものが、どんどん引き出されていくようで、心がざわざわする。