「それで田中さんは、お菓子の勉強して、コーヒーのことも自分で調べて、それでこっちに帰ってきたってことは、自分のお店を出す予定だったりするの?」


興味津々といったその様子は演技なのか、それとも本心なのか、わからないけれど、どっちにしたって真帆にはあまり触れてほしくない話題だった。


「いや、別に……」


地元に戻ってきたのは、そんなキラキラした理由からじゃない。
真帆にしてみれば、戻ってきた、帰ってきたというよりも、“逃げてきた”という言葉の方がしっくりくる。


「まあ、お店出すのって大変だって言うしね。俺が昔バイトしてたラーメン屋の店長も、修行しながら掛け持ちで仕事してお金稼ぎつつ経営の勉強もして、ようやく開店までこぎつけたって言ってたし。その話始めるといつもさ、あの時の俺は若かったし、夢と希望に満ち溢れていたからやれたんだって、今同じ生活したら死ぬって遠い目をして言うんだよ」


さらっと話を聞いただけでも、一体いつ寝ているんだと訊きたくなるような生活だ。確かにそれは、若さがないと無理かもしれない。あと夢と希望も。