「未来の旦那がどんな仕事をしていて、どれくらいの稼ぎがあるか、知らなくてもいいの?」

「はい!?!」


嫌な予感が的中した。
更に田辺は、口をぱくぱくさせるばかりで言葉の出てこない真帆を見て、ことさら楽しそうに笑みを深める。


「ここはやっぱり妻として、知っておいた方がいいんじゃない?」

「だ、だれ、誰が妻だ!!」


ようやくそれだけ言い返した真帆だが、田辺の笑顔は変わらない。


「田中さんは、もしかして奥さん派?それとも、嫁の方がよかった?」

「そういうことじゃない!」


呼び方の問題ではないのだ。


「そっか、そっか。今の時代、下の名前で呼ぶ人だっているもんね。じゃあ、“真帆ちゃん”がいい?それとも“真帆”?」


“真帆”と呼ばれた瞬間に、記憶の底に押し込めていた声が、笑顔が、温もりが、匂いが、色んなものがぶわっと真帆の中に広がった。


「……どうしたの?田中さん」


突然目を見開いて固まる真帆に、田辺が不思議そうに首を傾げながら問いかける。