「さて、じゃあメッセージ送るから名前教えて。……あっ、でもその前にコーヒータイムだ。チョコまんが冷めちゃう」


唐突にその存在を思い出したらしい田辺は、片手でスマートフォンを操作しながら、もう片方の手でチョコレートまんを口に運ぶ。なんとも行儀が悪い。


「そういえば田中さんさ、今はどこで働いてるの?」

「え、嫌だ」

「今の問いかけにその回答はおかしいと思う」


だってその問いは、職場が飲食店などの誰もが立ち入れる場所だった場合、絶対に来るパターンのやつではないか。一瞬でそこまで思い至ったからこその、この回答だ。


「ちなみに俺はね――」

「いい!聞きたくない。今までの感じだと、それ聞いたら私も教えないといけなくなるやつじゃん。だからいい!聞きたくない。ていうか、初めから興味もない」

「せめて興味くらいは持ってよ。寂しいな」


わざとらしく寂しげな顔をして見せる田辺に、嫌だ聞かない聞きたくないと、真帆は頑なに首を横に振る。
すると田辺は何かを考え込むように黙り込んだあとで、「いいの?田中さん」と笑みを浮かべる。それは、なんだかとても嫌な予感がする笑みだった。