本気で引いている様子の田辺など視界に映すこともなく、真帆は過去の自分を恨みつつ大きなため息を吐いて、脱力したように椅子に腰を下ろす。


「まあ、なんでもいいけど、調子悪いなら我慢しないで言ってね」


真帆の体調を心配しているのかと思いきや


「さあて、冬季限定チョコレートまんはどんなかなー」


次の瞬間にはもう、楽しそうに皿へと手を伸ばす田辺。真帆の方など見てもいない。
これだから、顔面だけの男は嫌なのだ。


「田中さんも遠慮せずどうぞ。冷めると固くなるよ」


これは、食べないと食べるまでしつこいやつなのでは?と感じたので、真帆は仕方なく皿に手を伸ばす。
湯気が出るほど熱々で、見るからにふかふかで、甘い香りが漂う茶色い中華まん。

あっつ!と声が聞こえて顔を上げれば、田辺がはふはふと口を開閉させながら熱を逃がしているのが見える。
やっとのことで飲み込んで、コーヒーを飲もうとしてまた「あっつ!」と声を上げて、なんとも忙しない男である。